
ヨーロッパ中世人に似た、平安人の認識
前のページで述べたような、人々が万物のなかに“怨霊”を見出し、恐怖に縛られ生きていた時代地域が、他にも存在する。
それは、中世のヨーロッパである。
西洋中世の人間は、あらゆる自然、社会の現象を、キリスト教の世界観で解釈しようとした。
その結果、あらゆるものに「神の怒り」を感じ、その精神はキリスト教の囚われ状態にあった。
くわえて当時のヨーロッパには、日本における末法思想に近いものが存在した。
末法思想のイメージを表した「飢餓草子」
借用元 http://blog.ytakzk.me/japanese_painting/
それが、〈千年王国論〉である。
末法思想は、釈迦の入滅後、時間が経つほどに世界の終末が近づくという発想だ。
それに対し、〈千年王国論〉とは、キリストの昇天後、1,000 年の後に、この世に〈ハルマゲドン〉が起こるという思想である。
ハルマゲドン イメージ図
借用元 http://ameblo.jp/yamikaki/entry-11432000304.html
こうした終末思想が流行した点は、日本と西洋で共通している。
またこのことは、「O藤原氏による摂関政治は、なぜ成立したか−現代にまで影響」のページにおける、「唐に呼応した、平安朝のあり方」などでも、簡単に述べた。
日本の歴史とは、平安中期ごろまでは中国・唐の動きに近いものを見せていたが、それ以後は、西ヨーロッパに対応したものとなっていく。
この点を宗教史の立場で語れば、日本では鎌倉時代に入り、法然の浄土宗や親鸞の浄土真宗などが、平安時代の浄土教を発展させるかたちで登場した。
その結果、それまで歴史に出ることなかった民衆が教化され、彼らは歴史の表舞台に現れるようになっていったのである。
これと同様のことが、16 世紀のヨーロッパでも発生しているのだ。
これはもちろん、当時のドイツで、カトリックの神学教授、マルティン・ルターにより引き起こされた〈宗教改革〉を指す。
ヨーロッパではルターがカトリックに対し、〈プロテスタント教団〉を興したため、その行動はそれまで日陰の存在だった、市民階級をおおいに刺激した。
その結果、ヨーロッパの近代は「市民の時代」となった。
こうした一連の、日本と西洋における歴史現象の一致は、平安時代後期から日本は、西洋と類似の歴史を歩むことになった証拠と言えるだろう。
国風文化が、日本の歴史にもたらしたもの
では最後に、国風文化が日本にあたえた影響について述べる。
これは「かな」の発明に見られるように、日本が独自の文化をもつ国家として、独立していくチカラとなったことだ。
またこのことは逆に述べるならば、日本が中国文化圏から本格的に外れていくことを意味する。
事実その後の日本は、唐滅亡後に中国の王朝となった〈宋〉、〈元〉、〈明〉などとは、ほぼ貿易だけの関係となった。
つまり中国の文物が、日本に決定的な影響をあたえるということは、おおよそなくなったのである。
平安時代後期から、日本は仏教、儒教、道教なども、ほとんど独自のものを生むようになっていった。
すなわちその時点における日本は、中国文化をほぼ完全に消化しきったと言える。
くわえてその後は、藤原氏に見られるような、最高権威者である天皇と外戚関係を結び、権力を占有するという方法も、立ち行かなくなった。
つまり平安後期からの日本は、そのように血縁がモノを言う、〈アジア的国家〉のあり方を脱したのである。
その代わりに、上皇や武士などが、「“権威”と“権力”が分離された、〈ニ権分立〉状態」の社会で、実権をめぐる抗争を展開していくこととなる。
この「権威と権力の分離」とは、もちろんヨーロッパでは、「ローマ教皇と国王」の関係性を指す。
すなわちこの点からも当時の日本は、アジアを離れ、西洋型の歴史を構築していくことになるのが、わかる。
またなぜ、日本の歴史は中国のものと異なり、時代による質的発展性があるのか、も、ここから説明できる。
まず中国社会の基本原理は、〈易姓革命(えきせいかくめい)〉である。
これは現体制に不義があれば、だれでもこの王朝を倒し、新たな王になってもかまわない、とするものである。
この思想はたしかに平等であるが、それだけであって、なんらの発展性もない。
事実、易姓革命の原理が何千年来も生きている中国の歴史では、つねに王朝の交替が見られるだけだ。
一方、日本型の〈ニ権分立〉状態における社会では、その“権威”と“権力”のあり方が目まぐるしく、時代によって変化する。
たとえば“権威者”が、“権力者”をも兼ねようとすることもあれば、またその逆もある。
前者の代表が、後醍醐天皇であり、後者の代表は、足利義満である。
そのような階級をめぐる闘争は、事実、日本の歴史に発育性をもたらしたのである。
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