「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

Bヴァイキングの歴史的意義-その本質は、「海の騎馬民族」 Bヴァイキングの歴史的意義-その本質は、「海の騎馬民族」

ヴァイキングがヨーロッパにもたらしたもの

 ここでは前ページの記述を踏まえ、少なくとも状況証拠から推測できる、ヴァイキングがヨーロッパにあたえたと考えられる文物を見てみる。

 

 まず第一点は、造船術漁業航海技術が挙げられる。

 

 はじめに中世初期にゲルマン民族たちがヨーロッパに侵入したのは、あくまで陸路を通ってである。

 

 またヨーロッパ各国も、中世の段階ではようやく各国が、キリスト教の価値観により統一されようとしていた時期である。

 

 よってヨーロッパの王たちや民衆も、その時点では外洋への関心はなかった。

 

 さらにヨーロッパが面する海は、大西洋をのぞけば、おだやかな地中海だけである。

 

 そこからその時代のヨーロッパ人たちがもっていた造船術や航海技術は、貧弱なものしかなかったことは、想像に難くない。

 

 ところが当然ながら、ヴァイキングは、海上での機動力主武器である。

 

 そうしたヴァイキングたちの、造船や海に対する深い知識がヨーロッパへ伝えられ、それがやがて 15 世紀からの大航海時代に役立ったことは、充分に考えられる

 

 その他のものとして、農業技術、金属加工、工芸技術、および貨幣経済なども挙げられる。

 

 もともとノルマン人たちは、ヨーロッパよりも寒冷な地で農業を営んでいたのである。

 

  ならばノルマン人たちは、気候や風土に左右されない、強い作物をつくる技術をもっていたであろう。

 

 くわえて当時は、ヨーロッパ各地に〈荘園〉が形成されはじめた時期でもある。

 

 であれば優れた農業技術は、おおいに需要があったはずだ。

 

 次に金属加工の技術であるが、まずこれは、@ヨーロッパにおけるゲルマン民族大移動は、なぜ起こったか?における「スラブ民族の形成」の章で述べた。

 

 もともとロシア人をはじめとするスラヴ民族は、「スキタイ人」というイラン系騎馬民族の末裔であり、そのスキタイ人は、金属加工に長けていたのであった。

 

 そうしたスキタイ人の子孫、および金属技術が、スラヴ地域からさらに北上してスカンディナヴィアまで到達したことは、充分に考えられる

 

 というのは、アイスランド・サガ(伝承)に一部、スキタイにかんする記述があり、また当時のノルマン人たちも実際に、金属加工が得意だったからである。

 

 かつ前述したように、ヴァイキングは基本的に商業が基幹産業であった。

 

 そこからヴァイキングは、ヨーロッパ人に商法と、通貨としての金属、すなわち“貨幣”を伝えたと言われる。

 

 なぜならヴァイキングは当時、便宜的にではあるが、すでに商売で貨幣を用いることがあったからだ

 

 そうした文化は、商業が盛んになった中世後期のヨーロッパにおいて、たいへんに役立ったことであろう。

 

 次いで工芸品だが、北欧には現在でも手工芸品や木材工芸品が、伝統産業として存在するのは、周知のとおりである。

 

 くわえて北欧における工芸品の歴史は、たいへんに古い。

 

 したがってノルマン人の工芸品文化が、中世ヨーロッパに伝えられたと考えるのは、きわめて自然である。

 

 最後に、北欧神話はヨーロッパで自然と広まりヨーロッパ(ゲルマン)土着の神話やキリスト教と融合されていった

 

 たとえばクリスマスに欠かせないサンタクロースは、フィンランドが故郷とされている。

 

 これは「サンタクロース伝説」が形成されていく過程で、北欧神話の概念が入り混じったものだ。

 

 および現在の英語における曜日の呼び方は、火曜日から金曜日までは、北欧神話における神々の名になじんだものである。

ヨーロッパから北欧に伝わったもの

 では逆に、ヨーロッパ方面から北欧へは、何がもたらされたのであろうか?

 

 これはなんと言っても、キリスト教である。

 

 ところで当り前だが、北欧神話に由来する神々は多神教であり、一方でキリスト教は、厳格な一神教である。

 

Bヴァイキングの歴史的意義-その本質は、「海の騎馬民族」
北欧神話の主神・オーディーン
借用元 http://siritai.jp/lecture/story/resume/mythology_norse_mythology.html

 

 よって伝道にあたり、北欧におけるキリスト教の浸透は、ヨーロッパにくらべ、おおきく遅れた。

 

 時期にして、10 〜 12 世紀にかけてである。

 

 その理由はもちろん布教にあたって、北欧諸国から強烈な抵抗があったこともある。

 

 だがキリスト教会側は、強硬な手段を用いず、教義を巧みに土着の宗教と組み合わせ、民衆に受け入れさせる。

 

 あるいは国王が国外へ出かけた際に懐柔するなど、巧妙な手段により、最終的には教化に成功した。

 

 その際に、土着の伝統的な様式で建てられたキリスト教の教会などは、現在でも残っている。

 

Bヴァイキングの歴史的意義-その本質は、「海の騎馬民族」
北欧における、現地文化と融合したキリスト教教会
借用元 http://ameblo.jp/ecopot/entry-10665286089.html

 

また、ヨーロッパを侵略したヴァイキングたちにとっても、キリスト教に改宗することは、国家統治のために必須であった。

 

 なぜならそれにより、名実ともに「ヨーロッパの王」を名乗ることができるからである

 

 したがってヨーロッパのヴァイキングたちは、自分から積極的に改宗したのである。

 

 そうしたわけで、ヴァイキングの活動とは、皮肉なことに支配者であるヴァイキングが、征服地の宗教を受け入れることで完全に終わりをむかえた

 

ヴァイキングの本質、それは「海の騎馬民族」

ここでヴァイキングの存在を、史学的に定義づけるなら、以下のような解釈も可能である。

 

 ◯海の騎馬民族

 

 これは、おもにヨーロッパとヴァイキングの関係性とはまさに中国と騎馬民族のそれに合致するからである。

 

 中国においては歴史上、国はつねに騎馬民族の脅威に脅かされていた。

 

 また実際の国力や武力も、騎馬民族のほうが勝っている場合が多かった。

 

 そんな騎馬民族たちは、歴史のなかでひんぱんに中国を征服し、優れた文物を中国に導入しながら、独自の国家を造った。

 

 だがそうした騎馬民族の国家は例外なく中国に同化し、それにより民族的なアイデンティティを喪失し、国は滅びていった。

 

 これは、ヨーロッパにおけるヴァイキングたちのたどった運命と同一である。

 

 まずヴァイキングたちは、海という外部からヨーロッパを武力で圧倒し、ヨーロッパ内に自分たちの国を造った。

 

 そしてヨーロッパに、より先進的な文明をもたらした。

 

 しかしヴァイキングたちは、征服地の支配原理であるキリスト教を受容することで最終的にはヨーロッパと同化し、姿を消していった

 

 ヨーロッパと中国。

 

 時代を対照させても、ヨーロッパでヴァイキングが猛威を振るった時代は、ちょうど中国では大国・唐が動揺し、〈五代十国〉という多くの騎馬民族による、複数の国家が交替したのと同時期である。

 

 この時代、ユーラシア大陸の東西両端において、おなじ現象が起こっていたのは、興味深い。

 

 

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管理人 水無川 流也