「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

I東南アジアにおける、上座部仏教(小乗仏教)の浸透 I東南アジアにおける、上座部仏教(小乗仏教)の浸透

印僑により形成された、東南アジア諸国

 インドでは、太古より商業が盛んであった。

 

 紀元前 2300 年ごろに興ったインダス文明の時代より、インドでは人々が商業にたずさわっていた。

 

 なぜそうなのかと言えば、やはりインドの地理的要因に依るものであろう。

 

 インド亜大陸はユーラシア中央南部にどっしりと位置しているため、陸路にせよ海路にせよ、他の国への交通が整っている。

 

 また北部の山岳地帯をのぞけば、往来にあたりこれという障害物もない。

 

 よって「印僑」と呼ばれるインド商人たちは、古代より世界各地へと進出していった。

 

 そのなかにあり東南アジア諸国はインドから近く、また気候も似ているため、多くの印僑たちがインドの文物をたずさえ、訪れた。

 

 そうしたなかで、インド商人が東南アジアへ伝えたもっとも重要なものは、やはり宗教である。

 

 インドで自然発生的に興ったヒンズー教と、上座部仏教(小乗仏教)と呼ばれる仏教がそれに当たる。

 

 この 2 つの宗教は、東南アジアの領域において、独自の文化圏を形成した。

 

 とくに上座部仏教は、現在でもタイ、ミャンマー、カンボジア、ラオス、スリランカ等で信仰されている。

 

 なお上座部仏教は、インドから見て南方の地域にて普及したため、「南伝仏教」とも呼ばれる。

 

 ではなぜ、上座部仏教は南方にて広まったのであろうか?

上座部仏教とは?

 先述したように、上座部仏教は「小乗仏教」とも呼ばれる。

 

 しかしながら、この表現は蔑称である。

 

 上座部仏教をこのように表現したのは、「大乗仏教」という集団である。

 

 大乗仏教とは基本的に、教義が国家権力により規定され国家統治のため信仰される教団を指す。

 

 一方、上座部仏教は、仏教の始祖ブッダがおこなった修行を通じ個々人が解脱を目指す教えである。

 

 大乗仏教から見た場合、上座部仏教とは「自分ひとりしか、救われないではないか」という意味をこめ、上座部仏教を「小乗仏教」と見下して呼ぶのである。

 

I東南アジアにおける、上座部仏教(小乗仏教)の浸透
上座部仏教徒たちの修行風景
借用元 http://zazenkyoto.exblog.jp/18603879

 

 インド本国では、中世後期には大乗も上座部もふくめ、仏教はほぼ消滅した。

 

 その理由については、「M古代インド 3.ヒンズー教」のページにおける、「古代インドにおける、ヒンズー教の優位性」の章を参考にしていだきたい。

 

 ところで大乗仏教は、結果的に中国やベトナム、朝鮮、日本といった国で信仰されたが、上座部仏教はおもに東南アジアで根づいた。

 

I東南アジアにおける、上座部仏教(小乗仏教)の浸透
大乗仏教と上座部仏教の伝播ルート。 赤が大乗仏教であり、青が上座部仏教
借用元 http://www2.iwakimu.ac.jp/~moriyuki/sjr/06/sjr06.htm

 

その原因は、何によるものであろうか?

上座部仏教と東南アジア

 まず現象的な面だけを見ると、大乗仏教を受け入れた国基本的に大国である。

 

 一方、上座部仏教が奉じられている国は南方の小国がほとんどである。

 

 はじめにそうしたタイ、ミャンマー、カンボジアといった地域は、中世の時点では熱帯湿潤気候のため食料資源は豊富であった

 

 端的に述べれば、国民が食糧を得るために必要な労働時間は、きわめて少なくてもよかったのである。

 

 よって、こういう地域では個々人が修行のために時間を割くことは、容易にできたのだ。

 

 また食糧生産がある程度、保証されているのであれば、国家はそれほど国民を縛る必要はない。

 

 なぜなら、「A農耕、牧畜、言語の起源-文明の必然的産物は、どのように生まれたか」のページにおける「農耕・牧畜の起こり」の章で述べたように、人類とは寒冷化等、やむをえない事情により「仕方なく」農耕や牧畜を始めたからである。

 

 食糧確保という生活基盤が安定しているなら共同体の掟も緩やかなものでいいだろう

 

 さらに国家の規模も小さいとなれば、なおさらである。

 

 人はムリをしてまで食糧生産のための労働などせずとも、自分の関心ごとにエネルギーを費やしても問題はない。

 

 くわえて支配者の側から見ても、人民を統制する規範はきびしいものでなくてもかまわない。

 

 むしろ、一人ひとりの国民が修練を重ねることで、国家全体の倫理観が高まり治安が安定するなら、それで充分である

 

 こうした事情から、上座部仏教は東南アジアで受容されたのである。

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管理人 水無川 流也