「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

Iタイ、カンボジア等で、なぜ仏教は受容されたか? Iタイ、カンボジア等で、なぜ仏教は受容されたか?

インド文化が東南アジアに浸透した歴史

 前のページでは、上座部仏教がいかに東南アジア全体に普及していったかを見た。

 

 ここでは仏教・ヒンズー教がどのように個々の東南アジア諸国で広まっていったかの歴史を、くわしく見る

 

 東南アジアはインド、中国からの人の流入が盛んだったため、1 世紀末にはメコン川下流に〈扶南〉という、東南アジア最古の王朝が興った。

 

 扶南ではサンスクリット語が法律用語として使用され、ヒンズー教を信奉する官僚たちに支えられた、インド文化を受け継ぐ国だった。

 

 なお、扶南の遺跡からはローマ貨幣やインドの神像が出土しており、商業国家インドを思わせる国際色豊かな国であった。

 

 また 2 世紀には現在のベトナム地域に、サンスクリット語が公用語であったチャンパーが建国された。

 

Iタイ、カンボジア等で、なぜ仏教は受容されたか?
扶南とチャンパー
借用元 http://eurekajwh.web.fc2.com/kougi/kougi/ind/tnA.html

 

 インドは古代、ヴァイシャ(商人)層が活躍したため、4 〜 5 世紀にはインド商人の船が東南アジア各地域をめぐり、「インド化」をもたらした。

 

 大陸部では、ヒンズー教の影響が強い〈カンボジア〉が 6 世紀にクメール人の手により造られた。

 

 またカンボジアは、扶南を滅ぼじた。

 

 なお、カンボジアでは 12 世紀にヒンズー教寺院である〈アンコール・ワット〉が建造された。

 

Iタイ、カンボジア等で、なぜ仏教は受容されたか?
アンコール・ワット
借用元 http://www.niimi-cs.co.jp/jibunshi2.html

 

 11 世紀にはミャンマーに〈パガン朝〉が興り、上座部仏教が広まった。

 

 さらに、今日のタイでは 7 〜 11 世紀にかけドヴァーラヴァティー王国が発展し、ここでも上座部仏教が普及した。

 

 また大陸部のみならず諸島部でも、海をつうじて「インド化」は進展した。

 

 7 世紀にはスマトラ島に、〈シュリーヴィジャヤ王国〉が建った。

 

 くわえてジャワ島中部では、8 世紀に〈シャイレーンドラ朝〉が興った。

 

 両国とも仏教が盛んであり、シャイレーンドラ朝には有名な仏教寺院、ボロブドゥールが建造された。

 

Iタイ、カンボジア等で、なぜ仏教は受容されたか?
ボロブドゥール
借用元 http://op.arukikata.com/tour/6869/

中世以降におけるインド・仏教系の東南アジア諸国

 では、そうしたインド・仏教文化圏における東南アジア諸国は、中世以後はどのような道を歩んだのだろうか?

 

 これはほとんどが、往年の発展を維持することができなかった

 

 まず諸島部では、インドネシアやマレーシアの圏内では中世の段階でイスラム化された

 

 中世においては、本国であるインド自体がイスラムの支配下に入ったため、インドをつうじてムスリム商人がやって来た、ということもある。

 

 また大陸部でのインド・仏教文化圏の国家は、近代に入り、タイという例外をのぞきみな西洋列強に植民地化された

 

 そもそもインドという国家自体が、その全盛期が古代後期だったため、ヒンズー教にせよ仏教にせよ、国家原理がそれ以後の歴史に対応できるものではなかったのだ。

 

 カンボジア、ミャンマー、ラオスといった国々は近代には西洋諸国に搾取され20 世紀にあっては社会主義化の失敗により、迷走した。

 

 これらの国々が、繁栄へと向かい出したのは、やっと東西冷戦後である。

東南アジアで唯一、独立を守ったタイ

 上座部仏教を国教とする国では、タイは唯一、どこの国にも植民地化されず、しかも現代にあって好調な経済成長をなしている

 

 その原因は、どこにあるのか?

 

 まず近代において、タイが独立を保てたのは、偶然的な要素が大きい。

 

 タイはたまたま、19 世紀には地理的にイギリスやフランスの緩衝地帯となっていたのである。

 

 よってタイは名目上は“独立国”でありえた

 

 しかしそれにしたところで、欧米から間接的な圧力を受けていたため、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ等と不平等条約等を結ばされていた。

 

 つまり近代のタイは、欧米に比肩できるほどの国力をもっていたわけではないのだ。

 

 しかし、近現代においてタイは、独自の近代化政策を採った。

 

 まず 19 世紀には、「チャクリー改革」という、軍事と教育の強化、および国民の民主化を図った。

 

 おかげでタイは他の東南アジア諸国ほど欧米からの略奪を受けずにすんだ

タイの現在

 さらに第二次世界大戦後は、タイには軍事独裁政権は起こったが他の東南アジア諸国のように社会主義化はされなかった

 

 くわえてタイは、1960 年代から、インフラ強化と一次産業品輸出という計画的な経済発展を図り、これが成功した

 

 および上座部仏教であるが、これはタイでは 20 世紀初頭の段階で、すでに国家管理下にあった

 

 すべての僧侶は、帰属する寺院に籍を入れられたのである。

 

 あらゆる生産活動に関わらない、出家した僧侶集団を「サンガ」というが、国民と〈サンガ〉と政府の関係は、三権分立に近い。

 

 まずサンガは、各地方の代表者として、国民の信頼を得ている。

 

 またそのサンガを保護し、資金援助することで、政府はサンガより権威づけられる。

 

 そしてサンガの味方である政府を、国民が信用するという構図である。

 

Iタイ、カンボジア等で、なぜ仏教は受容されたか?
「サンガ」と呼ばれる、タイの出家信者たち。

 

 しかしこのように、国家意思を介した仏教組織はもはや「上座部仏教」とは言いがたい

 

 なぜなら、上座部仏教でもっとも重視されるべきは個人の主体的意思による修行であろうからだ

 

 国家権力とタイアップされてしまえば、それはもう上座部仏教ではないであろう。

 

 それはすでに、大乗仏教である。

 

 しかしながら、これは一種の宗教改革であり、「宗教の近代化」でもあるかもしれない。

 

 このように仏教を換骨奪胎させることでタイでは仏教が時代遅れで陳腐化した教義とならずにすんでいるのだ

 

 この点は、旧弊な宗教により国家の発展を妨げられている他国も、参考になるかもしれない。

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管理人 水無川 流也