「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

D教皇権の盛衰と、国王権の伸長-近世的社会を準備 D教皇権の盛衰と、国王権の伸長-近世的社会を準備

近世への息吹

前ページで述べたように、教皇権が栄華をきわめ、没落すると、それに代わり国王の権力が相対的に増大することとなった。

 

 当然だが、教皇とは一人であるが、国王はヨーロッパに複数、存在する。

 

 すると数ある国王たちが、西洋や世界において、自分の影響力を他国よりおよぼそうとする。

 

 こうして近世における〈絶対主義〉の時代は、始まっていく。

 

 ここでは、どのように教皇権が凋落し、代わって国王の力が膨張していったかを見る。

 

教皇権の衰退

 ローマ教皇は、相次ぐ十字軍活動の失敗によりその地位はじょじょに低下していった

 

 くわえて十字軍を企画した教皇の権威が失墜すると同時に、十字軍を直接、指揮した国王の国民からの信頼は増大した。

 

 そうした情勢にあり、教皇権を決定的に地に落とした事件が起こった。

 

 それは 1303 年に発生した、〈アナーニ事件〉である。

 

 当時、つねに教皇権の強化を主張していたローマ教皇・ボニファティウス 8 世、1303 年、彼と対立していたフランス国王、フィリップ 4 世拉致されたのである。

 

 ボニファティウス 8 世はその直後、解放されたが、怒りのあまり憤死した。

 

 またフィリップ 4 世はその後、教皇庁を南フランスのアヴィニョンに移しそれ以後 70 年、ローマ教皇はフランス王の支配下に置かれた

 

 この期間は、〈教皇のバビロン捕囚1309 〜 1377)と呼ばれる。

 

 その後、教皇はローマに戻ったが、アヴィニョンでもまた教皇が立てられたため、ローマとアヴィニョン双方で教皇が正統性を主張する時代が続いた。

 

 これを〈教会大分裂=大シスマ〉と言う。

 

 最終的に教皇の分裂状態が収束するのは、1417 年の〈コンスタンツ公会議〉においてである。

 

 その間に教会は、カトリックによる教義の正当性を主張するため、異端者の大弾圧をおこなった。

 

 このとき教会の改革を唱えながらも圧制された者たちの主張は、以下のようなものであった。

 

 「キリスト教の真髄は、カトリックではなく、『聖書』にある。『聖書』に還れ」。

 

 その際、カトリックと、カトリックから異端とされた者たちのあいだで激しい争いがくり広げられ、カトリックの信望は、ますます落ちていった。

 

 またこうした〈反カトリック運動〉は、近世における〈宗教改革〉へとつながっていく。

 

 および、ここで注意すべきは、以下の点である。

 

 中世後期において没落したのは、ローマ教皇と封建領主であり、地位が向上したのが、国王である。

 

 つまり“近世”へと向かうその時代においては、“国家”の主である“国王”のみが成長したのだ。

 

 ここを逆に言うならば、“国家内”にある共同体も、“国家外”に存在する、〈教皇庁〉という「超国家的機関」も両方が没落したのである。

 

 こうして西洋は、“国民国家”の時代へと向かっていくのである。

 

D教皇権の盛衰と、国王権の伸長-近世的社会を準備
教会を批判したため、火刑に処される、宗教家 ヤン・フス
借用元 http://twicsy.com/i/fRV4bd

日本との共時性

 この一連の流れでもまた、目につくのが、わが国・日本との〈共時性=シンクロニシティ〉である。

 

 日本でもこの時期は、二つの朝廷がたがいに正統性を主張する、〈南北朝時代(1336〜 1392)〉へと入っている。

 

 これより後、日本では〈応仁の乱〉を経て、各国の大名が争う戦国時代へと突入する。

 

 西欧でもこの時代から先は、各国の国王たちによる、本格的な戦乱期へと続く。

 

 こうした歴史的事実もまた、日本と西欧は、それぞれ同質の文明原理を共有していることを示しているのがわかる。

 

戦争形態の推移

 おおよそヨーロッパ中世における戦争は、小規模かつおだやかなものであった。

 

 まず戦争の当事者たちは、“国王”というより、“封建領主”だった。

 

 つまり当時の戦争は、“国民国家”同士でなされるのではなく、いわば“地方自治体”による争いといった傾向が顕著だった。

 

 語弊を恐れずに述べれば、中世期の戦争とは運動会の延長のようなものであり、戦死者もきわめて少なかった。

 

 その理由は、戦争の目的そのものが、要人を捕らえて身代金を獲得するか、あるいは窮屈な封建社会を生きる、騎士たちのガス抜き程度であったからだ。

 

 ではここで、なぜ“隣人愛”を説くキリスト教の共同体同士が戦争をできたのか、疑問が湧くが、それは以下のような事情からではないだろうか?

 

 まず第一に、中世の段階では、早い時期ほど『聖書』の教えがヨーロッパ全体に浸透していなかった。

 

 したがって民衆の信じる“正義”とは、古代ゲルマン社会のもの、あるいはカトリック的に歪曲されたものだったから、というものである。

 

 そもそも中世の教会では、ラテン語訳の『聖書』が使われたが、それが読めたのは、ほぼ聖職者のみであった。

 

 当時の識字率はきわめて低く、一般民衆はもちろん王侯貴族や荘園領主でも文字が読めない者はきわめて多かった

 

 よって、戦争は権力者の恣意や大義により、簡単に起こされたのである。

 

 だがそうした戦争のあり方は、“国王”の力が増大するとともに、当然に変わってくる。

 

 戦争は“地方自治体”ではなく“国家”同士でおこなわれるようになるのであるから、もちろんその規模も大きくなる

 

 またローマ教皇の権威が落ちると、かわりに国王が「地上における、“”の代弁者」という地位を得るのである。

 

 そうなるとまさに、戦争に宗教的な情熱が加わるから、異端者である敵国に対する攻撃も、激しくなるであろう。

 

 そうした戦争のあり方における変遷は、14 世紀に英仏間で始まった〈百年戦争〉において、顕著になっていく。

関連ページ

@ヨーロッパにおけるゲルマン民族大移動-原因と結果
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
@フランク王国の成立と実態-西洋中世の完成と、文明の程度
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
@フランス、イタリア、神聖ローマ帝国の形成と、今日のヨーロッパ
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
@封建制度と自由都市が、近現代経済体制をつくった
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
@中世キリスト教文化が、キリスト教否定を招くという矛盾
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
@西洋中世文化という少年期-“聴覚”の重要性
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Aビザンツ帝国の人民抑圧を正当化する、ギリシャ正教
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Aビザンツ帝国の、興亡と盛衰-朽ちていくことが宿命
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Aビザンツ帝国の、歴史的意義と発展段階-文明の仲介者
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Aスラブ諸国の形成と特徴-彼らはなぜ、専制的なのか?
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Bヴァイキングの活動-忘れ去られた、真の西洋の支配者
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Bヴァイキングの歴史的意義-その本質は、「海の騎馬民族」
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
C十字軍 -「文明の衝突」の原点-逆転する時代の覇者
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
C十字軍-和解不可能なキリスト教とイスラム教の原点
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Dローマ教皇と国王-特異な二重支配体制-権威と権力の分掌
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
E英仏百年戦争と、議会の成立-王権の強化を生む
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
E百年戦争の原因と経過と結果-近代ヨーロッパの構図を形成
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Eバラ戦争が決定づけた、イングランドとスコットランド
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Fイスラム教の誕生と本質-なぜ時代はイスラム教を必要としたか
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Fスンナ派とシーア派の差異-ペルシャ文明の関与
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
F.『コーラン』の構造に見る、ムスリムの行動原理
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Gアッバース朝と後ウマイヤ朝-中世の覇者、中世西洋の抑圧者
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Gトルコ系王朝という、中世・近代西洋の「最強仮想敵国」
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Gインド、東南アジアにおける、イスラム教の伝播-人口増加を呼ぶ
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
G.アフリカ大陸の通商路をつくった、イスラム王朝
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Hイスラム文化と、その本質-〈古代〉と〈近代〉の媒介者
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
H神秘主義という、イスラム教の「正統的異端者」
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Hイスラム文学から読み解く、中世世界-聴覚優先
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Hイスラム文化 -造形美術と音楽-イスラム芸術の特殊性
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
I東南アジア諸国における、共通した特性
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Jベトナム-中国(漢字)文化圏 -強国支配に対し、抵抗
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
I東南アジアにおける、上座部仏教(小乗仏教)の浸透
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Iタイ、カンボジア等で、なぜ仏教は受容されたか?
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Iマレーシア、インドネシア-近代化できたイスラム教国
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Iフィリピン-ラテン・アメリカに近い、カトリック文化圏
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。

管理人 水無川 流也