
十字軍を、人類史的視点で顧みれば
ここでは〈十字軍〉とは何か、これを西洋史に限定せず、人類史の立場から見てみる。
ます「十字軍 対 イスラム諸国」の戦争とは、人類史上初の、一神教勢力同士の戦いと位置づけられる。
これを皮切りに、キリスト教国とイスラム教国は、後々、現代にいたるまで本格的な戦争を、何回も起こすこととなる。
および現象のみを述べれば、歴史上、キリスト教徒とイスラム教徒は和解し、共存共栄をしたことがない。
たしかに過去におけるイスラム教国のなかに住むキリスト教徒は、〈シズヤ=人頭税〉という税金さえ払えば、信仰の自由を守られたという事実は存在する。
またキリスト教徒やユダヤ教徒は、「啓典の民」として、イスラム教国内で一定の敬意を表されたのは、事実である。
しかしこの場合は、あくまで主従関係が成立したうえでのものだ。
およびこのケースにおけるイスラム教徒の立場に立てば、あくまでキリスト教徒からの税金を確保したかっただけである。
その際、もしキリスト教徒がイスラム教への改宗や、もしくは納税を拒否した場合は、容赦なく罰せられた。
一方、十字軍にしても、イスラム教国内における残虐行為は、壮絶をきわめた。
イスラムの兵士に対してはもちろん、地域の非戦闘員を皆殺しにするということは、ひんぱんにおこなわれた。
のみならず十字軍は、元来的には味方であるはずのビサンツ帝国内においても、略奪や暴行などの行為をはたらいた。
こうしたキリスト教徒・イスラム教徒、両者の態度を決定づけたものは、何であろうか?
〈三位一体〉という概念をめぐる対立
この点は端的に述べるならば、歴史的にキリスト教教会の主流であったカトリックやプロテスタントの唱える、〈三位一体〉という概念に原因がある。
〈三位一体〉については、当サイトの、「Kキリスト教における最重要概念、〈三位一体〉とは何か?」を参考にしていただきたい。
キリスト教側とすれば、〈キリスト〉を「神の一部」と認めない者は、すなわち“悪魔”である。
“悪魔”は当然に“人間”ではないのだから、それに対してはどのようなことをしても許される。
いや、むしろ“悪魔”を排斥するのは、絶対の正義、というのが、キリスト教徒の論理である。
よってキリスト教徒は歴史上、〈魔女狩り〉や〈異端審問〉で多くの“悪魔”を葬ってきた事実がある。
またビザンツ帝国の国教である〈ギリシャ正教〉は、カトリック的な立場での「三位一体論」を採らない。
この点は、「Aビザンツ帝国の人民支配を正当化する、ギリシャ正教」のページを参照していただきたい。
こうしたことから、カトリック教徒である十字軍の兵士たちは、おなじキリスト教国であるビサンツ帝国の国民に対しても、非道な行いができたのである。
ここから十字軍の活動とは、西洋人が元来もっていた残虐性を、歴史的に最初に開放してしまった事件とも考えられる。
こうした西洋人の残忍さ、および他者・他民族・異教徒に対する不寛容性は、後々、近世以降の歴史において、イヤになるほど目にするようになる。
では一方、イスラム教徒側の論理はどうか?
じつはイスラム教徒の聖典である『クルアーン=コーラン』のなかで、〈三位一体〉を批判する箇所があるのだ。
イスラム教徒からすれば、「“神”=アッラー」は、絶対的な唯一神である。
および彼らにとっては、「ナザレのイエス」こと〈イエス・キリスト〉は、数ある預言者のひとりにすぎない。
つまりイスラム教徒にとっては、人間であるキリストを、「神の一部」と見なすことは、「“神”=アッラー」に対する大いなる冒涜である。
ならばイスラム教徒から見れば、〈三位一体〉を唱える“キリスト教徒”とは、存在自体が「神への不敬」であろう。
こうした点から、キリスト教徒が〈三位一体〉という教義を保持する以上、キリスト教徒とイスラム教徒は、絶対に共存できない関係にあると言える。
よってキリスト教徒とイスラム教徒の対立とは、「異文化、異教徒」という表層的な関係によるものではなく、まさに原理上の相違にもとづいたものであるのだ。
したがって 21 世紀初頭である現在の時点において、顕在化しているキリスト教とイスラム教による「文明の衝突」は、残念ながら解決不可能である。
両者による対立の解消は、どちらかが、あるいは両者が教義そのものを破棄するか、あるいは片方がどちらかの宗教に帰依するしか、方法はないのである。
現代におけるイスラム過激派
借用元 http://plaza.rakuten.co.jp/yama326/diary/201406300007/
現代のイラク戦争における多国籍軍
借用元 http://dontena.doorblog.jp/archives/24645764.html
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