「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

Fスンナ派とシーア派の差異-ペルシャ文明の関与 Fスンナ派とシーア派の差異-ペルシャ文明の関与

イスラム教の時代性

 このページでは、イスラム教初の帝国、ウマイヤ朝の成立過程を見るとともに、なぜイスラム教がその時代のその時期に隆盛を誇ったかを検証する。

 

 イスラム教が発生してから、中世のユーラシア大陸中央部にて伝播していった速度は、他の世界宗教、キリスト教や仏教には見られないものである。

 

 イスラム教の何が、当時の人々をそこまで強く惹きつけたのか。

 

 また、ということはイスラム教にはその時代を生きた人々の需要に応えるものを持っていたことを意味する。

 

 その内容を、吟味する。

ウマイヤ朝の成立

 ムハマンドが在命中に、イスラム教団はメッカにてすでに大組織になっていた

 

 やがて教団はムハマンドの死後、指導者〈カリフ〉を制定し、征服活動による勢力拡大を図った。

 

 これを〈ジハード(=聖戦)〉と言う。

 

 アラブ人たちは東方ではササン朝ペルシャを滅ぼし、また西方ではビサンツ帝国(=東ローマ帝国)からおおいに領地を奪った。

 

 ところがやがて、第 4 代のカリフ、アリーが暗殺されたため、彼と敵対していたムアーウィヤは自らを 5 代目カリフとし、661 年ウマイヤ朝を開いた。

 

 その後、ウマイヤ朝はますます領土を広げ、最終的には西アジア一帯とアフリカ北岸、およびイベリア半島まで支配するに至った。

 

Fスンナ派とシーア派の差異-ペルシャ文明の関与
ウマイヤ朝 最大領土
借用元 http://www.uraken.net/rekishi/reki-westasia18.html

 

 しかしウマイヤ朝内部では、多数派を占める〈スンナ派〉がいる一方、カリフはアリーの子孫のみとする〈シーア派〉が存在した。

 

 スンナ派とシーア派の対立は、現在におよぶも続いている。

 

 ウマイヤ朝は国力や武力では、当時、ヨーロッパを支配していたフランク王国を、はるかに凌駕していた。

 

 しかしウマイヤ朝は 732 年トゥール・ポワティエ間の戦いにおいて、偶然的な不運が重なり、フランク王国に敗れた。

 

 よって中世の地中海周辺地域における勢力は、イスラム勢ビサンツ帝国西ヨーロッパの 3 強により占められることとなった。

 

 イスラム帝国においては、アラブ人が指導者として君臨し、被支配者たちには地租(ハラージュ)、人頭税(シズヤ)という税が課せられた。

スンナ派とシーア派の差異における本質

 現在、イスラム教の宗派はスンナ派とシーア派の 2 派に大別できる

 

 前述したように、この 2 つの組織の差異とは、以下のようなものである。

 

 5 代目カリフ、ムアーウィヤを認めるか、あるいはカリフとは 4 代目のカリフ、アリーの子孫だけに限定するか、という点である。

 

 前者がスンナ派であり、現在ではイスラム教徒の 9 割を占めると考えられている。

 

 また後者がシーア派であり、こちらは現在のイランを中心に、イスラム教徒の 1 割ほどの信者が属していると思われる。

 

 まず、なぜこうした両派の違いが生まれたかと言えば、これは端的にはムハマンドがカリフの資格について、生前にきちんと定義づけなかったからである。

 

 また次に、イスラム教の宗派とはこのスンナ派とシーア派の二者しかないかというと、そんなことはない。

 

 過去、現在をつうじてイスラム教には様々な教派が存在した。

 

 ではなぜ、イスラム教においてはスンナ派とシーア派の確執ばかりが着目されるのか?

 

 これには、以下のような理由が挙げられる。

 

 まず純粋に、最大多数派であるスンナ派に対し、信者の数で対抗できるのがシーア派だけであるという点である。

 

 たしかに全体の信者数自体は、スンナ派はシーア派を圧倒している。

 

 しかし特定の地域、イランやイラクにおいてはシーア派はむしろ多数派である

 

 とくにイランではシーア派の割合は 9 割を超える

 

 これは、なぜであろうか?

 

Fスンナ派とシーア派の差異-ペルシャ文明の関与
スンナ派とシーア派の分布図
借用元 http://matome.naver.jp/odai/2140543520401691401

西アジアにおける、ペルシャ文明の優位性

 まずイランとは、西アジアにおいてペルシャ文明を長年にわたり興してきた、非常に高度な文明を誇る地域である。

 

 当地は宗教では、ミトラ教ゾロアスター教を生んでいる。

 

 まずミトラ教であるが、これは世界の主だった宗教はほとんどがミトラ教に直接・間接の影響を受けている。

 

 それは仏教、道教、日本神道、ユダヤ教、ゾロアスター教、キリスト教、そしてイスラム教等である。

 

 またゾロアスター教であるが、こちらもユダヤ教・キリスト教・イスラム教・仏教に影響をあたえたのみならず、世界初の二神教(厳密には一神教)となった宗教である。

 

 およびペルシャは、ササン朝やアケメネス朝という大国家を生んだ地でもある。

 

 しかもペルシャではその高度な文明が、イスラム教徒の支配下に入るまで、何千年にもわたり連綿と伝われてきた

 

 この点が、過去に偉大な文明をもちつつも、それが単発的に終わったか、あるいはローマやペルシャのような大帝国の支配下に入った、メソポタミアやエジプトと異なる点である。

 

 そうした伝統をもつペルシャでは、新興のアラブ人たちによる教えを率直には受け入れられない部分があった。

 

 よって、ペルシャにおけるイスラム教、すなわちシーア派は、ペルシャの古典文明におおきく影響されるものとなった

 

 たとえばシーア派は、スンナ派より精神性が重んじられる。

 

 またシーア派においては、イスラムの掟は神秘的に解釈される。

 

 というより、そもそもイスラム教とは”と“”を習合させ、信者の日常生活全般にまで言及する宗教である。

 

 しかしペルシャにおいては、教義が日々の習俗のなかに解消されることが好まれない

 

 その理由は、もちろんそれでは相対的に人間の内面性が軽視されることになるからである。

 

 よってシーア派では、ミトラ教的な観念的信仰心が強調され、かつシーア派は歴史的に「スーフィズム」と呼ばれる〈イスラム教 神秘主義〉を生み出している。

 

Fスンナ派とシーア派の差異-ペルシャ文明の関与
イスラム スーフィズム
借用元 http://islamabaddream.seesaa.net/article/181882582.html

 

 こうした点こそがシーア派の特徴であり、かつスンナ派と一線を画す点である。

 

 またもう一点、シーア派の特性を挙げると、〈最後の審判〉に見られる〈終末思想〉が強調されている点である。

 

 これなどは、ゾロアスター教の影響と考えれば、腑に落ちる。

 

 なぜならゾロアスター教においては、善神と邪悪神のはてしない闘争のすえ、死者も生者も合わせ、〈最後の審判〉が下されると説かれているからである。

 

 それに対しスンナ派においては、教義が日常性のなかに埋没している傾向がある。

 

 すなわちスンナ派においては遠い未来を考えるより、いま目の前にある現実のなかで教義を実践することが尊ばれるという意味合いが強いのである。

 

 ところが現代におけるスンナ派とシーア派の宗派対立とは、純粋な宗教的解釈によるものとは言えない。

 

 これは土地や石油の利権をめぐる争いが根本でありその点を表面的にスンナ派とシーア派の争いと語られることが大部分である

 

 

 

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管理人 水無川 流也