「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

F.『コーラン』の構造に見る、ムスリムの行動原理 F.『コーラン』の構造に見る、ムスリムの行動原理

なぜイスラム教は、尋常でない速さで拡がったか

 さて、ここではイスラム教がなぜかくも異常なまでの速度でおもに西アジア地域で伸展したのかを、説いてみたい。

 

 まずキリスト教は、ナザレのイエスが誕生して教えを広めてから、その教義がローマ帝国の国教になるまで 400 年ちかくかかっている。

 

 またキリスト教、イスラム教とともに「世界三大宗教」のひとつとされる仏教は、教祖ブッダの生誕から仏教の教義が国家に認められるまで、250 年ほど経過している。

 

 それに比してイスラム教は、ムハマンドのメッカでの布教から直後にイスラム教圏が広がっていった

 

 これには、どのような理由があるのだろうか?

 

 この点については、F.コーラン(クルアーン)の構造に見る、ムスリムの行動原理のページにおける、「なぜイスラム教は、『中世の中心的教義』になれたのか」「イスラム教の『中世性』」の章でもくわしく述べている。

 

 しかしそこにつけ加えるものがあるとすれば、以下の点である。

 

 まずイスラム教の聖典『コーラン(クルアーン)』には、多くのタブーが述べられている。

 

 そのなかでも重要なのは、“”と“”にかんする禁忌が多いことである。

 

 たとえば「断食日(ラマダーン)」を設けること。

 

F.『コーラン』の構造に見る、ムスリムの行動原理
ラマダーンの開始
借用元 http://www.ima-earth.com/contents/entry.php?id=201182172349

 

 あるいは飲酒や、婚前交渉は、『コーラン』のなかでつよく禁じられている。

 

 ちなみに“食欲”と“性欲”は、どちらも「人間の 3 大欲求」にふくまれる。

 

 それに並行し『コーラン』では、〈聖戦=ジハード〉の重要性が強調されている。

 

 これはどういうことかと言えば、イスラム教においては信徒の“禁欲”により蓄積されたエネルギーをジハード〉に向けることを暗に示唆しているのである。

 

 また『コーラン』では、〈ジハード〉において殉教した者には、天国での酒池肉林が約束されている。

 

 イスラム教が、その教義を確立させた中世初期に、西アジアで猛烈に伝播し得たのは、そうした事情にもよる。

 

 なぜなら、7 世紀における当地とは、それまでそこを支配していた国家が弱体化、もしくは消滅し、不安定な状態にあったからだ。

 

 まず西ローマ帝国は 476 年にゲルマン人傭兵により滅ぼされた。

 

 さらにビサンツ帝国(東ローマ帝国)やササン朝ペルシャは、内乱や戦争などでその時代には国力をおおいに落としていた。

 

 そうした事情から、当地域は強力で一元的な支配者を必要としていたのである。

 

 イスラム勢力の出現とは、そのような需要に応えるものであったからこそ急速に受け入れられたのだ

 

 またそこから『コーラン』とは、いつでも信徒が戦場に出られる、平和状態の時期を前提に書かれた書物と言える。

アッラーの神格について

 最後に、『コーラン』におけるアッラーのあり方である。

 

 言うまでもなくアッラーは、イスラム教における唯一神である。

 

 そしてアッラーは、『コーラン』のなかで一人称で、えんえんとイスラム教の教義を述べている。

 

 そうしてそのアッラーの性格は、おっかないカミナリオヤジである。

 

 その傲岸なカミナリオヤジが、命令口調で恐怖と報酬、すなわち「アメとムチ」でイスラム教徒が守るべきことを語るのが『コーラン』である。

 

 これは「慈愛の宗教」であるキリスト教の聖典、『新約聖書』と比較すれば、おもしろいことがわかる。

 

 まず『新約聖書』においては、“神”が直接に現われ、ものを語る場面はまったくない。

 

 むしろ『新約聖書』においては、語り部はイエスやイエスの弟子たちであり、“神”はそうした預言者たちを通じ、間接的に教えを伝えるというかたちをとっている。

 

 それによりかえって、『新約聖書』では「神の慈悲深さ」が読者に伝わるようになっている。

 

 その面で言えば、『コーラン』の構成、および「神のあり方」は、『旧約聖書』に近い。

 

 言うまでもなく『旧約聖書』とは、はじめにユダヤ教の聖典であり、またキリスト教、イスラム教においても聖典とされる書物である。

 

 そしてユダヤ人もアラブ人も、ともに〈セム系民族〉である。

 

 〈セム系民族〉とは、一般に中東地域に住む人種を指し、もともとは遊牧民族である。

 

 また遊牧民族とは、通常は一人の族長により率いられる存在である。

 

 さらに中東の遊牧民族とは、過酷な環境のなかで牧畜や通商により身を立てなければならない。

 

 そんな状況にあれば、指導者はつねに厳然と独裁的に民を統治せねばならないだろう

 

 なぜなら多数の従者たちの意見を聞いてから、「民主的に」判断を下すような余裕はないからである。

 

 よってここから考えられることは、アッラーの性格とは、『旧約聖書』の神と同様、セム系民族における族長たちの典型的な人格が、神格化されたものと考えられる。

 

 ユダヤ教からキリスト教が興ったが、“中世”という人類の少年期に入り、“神”は再度、「慈愛に満ちた絶対神」から「問答無用のカミナリオヤジ」へと還ったのだ。

 

 “中世”が人類にとって「少年期」であることは、「Fイスラム教の誕生 1.イスラム教における、教義の本質」における「イスラム教の『中世性』」の章で述べた。

「少年の教化」。それがイスラム教の本質的な教え

また少年にとってのふさわしい“教育”とは、言語による一方的な教化である。

 

 なぜなら“少年”とは、“青年”と異なり、「自分のアタマで考える」ということはできない

 

 かといって“少年”は、“幼児”と異なり、言語”はきちんと理解できる

 

 よって、コトの善悪を可能なかぎり言葉で具体的に教えこむのが少年”に対し、もっともふさわしい“教育である。

 

 だからこそ『コーラン』においては、じつに現実的な事柄を取り上げ、それらについての良し悪しを厳しく指導するのである。

 

 くわえて『コーラン』とは、アラビア語で書かれており、イスラム教においては外国語に翻訳された『コーラン』は、すでに『コーラン』ではないとする

 

 イスラム教では“”を大切にするので、アラビア語の発音から漏れた教えは意味がないと見なされるのである。

 

 この点などは、イスラム教が中世の宗教でありかつまた中世とは“聴覚”の時代であり、さらにはそれゆえ中世”とは“少年”の時代だという証明である。

 

 これもすでにで何度も述べたが、“少年”に対するもっとも相応しい教化は言って聴かせる」ことにあるからである。

 

 よって中世人であるイスラム教徒に対する教育とは、神の教え」を教条的かつ具体的に耳に聴かせることをもって本分とされる。

 

 またこの点からも、イスラム教は「少年の時代」である中世の覇者になりえたのに、「青年の時代」である“近代”で衰退していった理由がわかる。

 

 つまり“近代”では、人間を取り巻く事象や環境が千変万化するため、イスラム教のような固定的な独断主義は、通用しなくなくなったのである。

 

 したがって近現代のイスラム教はただの〈原理主義〉へ堕落していったのである。

 

 つまりは近現代においてイスラム教は、完全に“形骸化”したのである。

 

F.『コーラン』の構造に見る、ムスリムの行動原理
アラビア語 コーラン(クルアーン)
借用元 http://www.breitbart.com/london/2015/02/25/saudi-arabia-hands-death-penalty-to-man-who-hit-koran-with-a-shoe/

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管理人 水無川 流也