「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

Gアッバース朝と後ウマイヤ朝-中世の覇者、中世西洋の抑圧者 Gアッバース朝と後ウマイヤ朝-中世の覇者、中世西洋の抑圧者

○ムハンマドなくしてシャルルマーニュ(=カール大帝)なし―アンリ・ピレンヌ

イスラム帝国のあり方

 中世に勃興した多くのイスラム諸国を見る場合には、2 つの観点が存在する。

 

 第一点はもちろん、そうした国々が中世においてどういう意味をもつか、である。

 

 そして次の点は、それらの国が近世以降、とくに西洋にどのような影響をあたえたか、である。

 

 というのは、中世の後期から西洋諸国の興隆が始まると同時にイスラム教国の没落が本格化しているからだ。

 

 そして西洋中世にもっとも作用をおよぼしたのは、イスラム諸国にほかならないからである。

 

 そうした点から、ここでは〈アッバース朝〉と〈後ウマイヤ朝〉を取り上げる。

アッバース朝の成立

 はじめに興ったイスラム教の大国は、661 年に建国された〈ウマイヤ朝〉である。

 

 ところがこのウマイヤ朝は、支配者であるアラブ人の特権を優遇したため、国内から批判が起きた。

 

 やがてその攻撃は、アッバース家による革命運動となり、ついに 750 年、〈アッバース朝〉が開かれることとなった。

 

 アッバース朝はティグリス・ユーフラテス川の間にはさまれた平原に、首都バグダッドを築いた。

 

 またアッバース朝では、多くの官僚を使った中央集権化が進展した。

 

 アッバース朝においては当初の理念どおり、アラブ人の特権は抑えられ、税制などの待遇はイスラム教徒であれば民族により差別されることはなくなった

 

 アッバース朝は 8 世紀後半には最盛期をむかえたが、その後、帝国はエジプトやイラン方面において 複数の王朝に分裂した。

 

 くわえてアッバース朝から分散した各国は、自身で〈カリフ〉を立てたため、複数のカリフが存在することとなり、アッバース朝の国力は衰退していった。

 

 やがて1258 年、アッバース朝は首都バグダッドをモンゴル人に征服され、滅亡した

 

Gアッバース朝と後ウマイヤ朝-中世の覇者、中世西洋の抑圧者
中世の面影を残す、現代のバグダッド
借用元 http://watai.blog.so-net.ne.jp/2006-04-04

後ウマイヤ朝の成立

 一方、このページでテーマとなるもうひとつのイスラム王朝、後ウマイヤ朝について述べる。

 

 ウマイヤ朝がアッバース朝に滅ぼされた際、ウマイヤ朝の王族たちは地中海を渡り、ヨーロッパのイベリア半島に到着した。

 

 そこで彼らは 756 年コルドバを首都とする後ウマイヤ朝を建てた。

 

 後ウマイヤ朝は文化的にも栄華を誇ったが、11 世紀には滅亡した。

 

 またイベリア半島におけるイスラム教徒たちは、キリスト教徒による国土回復運動(=レコンキスタ)により、1492 年には完全に当地から追放された。

 

Gアッバース朝と後ウマイヤ朝-中世の覇者、中世西洋の抑圧者
イスラム風建築物が残る、現代のコルドバ
借用元 http://homepage3.nifty.com/yodonokofune/concert2pr_012.htm

アッバース朝の文明段階

 この点は、Aビザンツ帝国の、興亡と盛衰のページにおける「文明原理における、3 段階のステップ」の章でも述べた。

 

 まず一般に、一つの文明とは、歴史上にて以下のような 3 段階の国家形態をたどる。

 

@ 文明の内容が、ある狭い領域において熟成される

 

Aその原理にもとづいた、時代を牽引する大帝国が出現する

 

B経済、領土の面では強国ではあるが、国家の原理はもはや時代遅れであり、たいした文化を創出することのない大国が現われる

 

 これをヘレニズム(ギリシャ・ローマ)文明に当てはめるのであれば、その国家は以下のようになる。

 

@古代ギリシャ Aローマ帝国 Bビサンツ(東ローマ)帝国

 

 さらにこの原理を、イスラム文明に適用すると、以下となる。

 

@メッカ時代のイスラム共同体 Aアッバース朝 Bオスマントルコ

 

 この理論の詳細について、長々と述べる暇はない。

 

 しかし上記の記載から言えることは、アッバース朝とは、〈イスラム〉という原則にもとづいた、世界を牽引する大帝国だということである。

 

 またおよび、そうした点からアッバース朝とは、国家のあり方がローマ帝国と同質のものと考えられるのだ。

 

 アッバース朝、ローマ帝国ともに、イスラム教ヘレニズムという文化にもとづきながら、世界の中心である大帝国へと発展した。

 

 その時期はローマ帝国は古代であり、アッバース朝は中世である。

 

 また両者とも一定の条件を満たせば、すべての民族が平等にあつかわれるようになった。

 

 くわえて後期には、両国とも支配地域が広くなりすぎた結果、全領土を保持するのがむずかしくなった。

 

 そのため国力が衰え国が分裂し、最終的に外敵に滅ぼされるところも同一である。

 

 よってアッバース朝とは、中世を代表する原理によって成り立つ中世を代表する王朝と定義することができる。

後ウマイヤ朝の歴史的意義

 次に、後ウマイヤ朝の歴史的位置づけを述べる。

 

 まず後ウマイヤ朝は、現在のスペイン・ポルトガルが存在する、イベリア半島で興された。

 

 またそれにより当地では、当然ながらイスラム教が国教とされた。

 

 この点は、じつに意味深長である。

 

 というのは、世界史上において有色民族が白人の国家を正式に支配したのはこの後ウマイヤ朝のみであるからだ。

 

 この点こそは、中世におけるヨーロッパとイスラム勢力との力関係を、如実に物語っている。

 

 また後ウマイヤ朝は、ヨーロッパに対する脅威となりながらも、イスラムの高度な文化を、ヨーロッパへと伝えた。

 

 そう考えると、後ウマイヤ朝とはヨーロッパに対しての「イスラムの出張所」のようなものである。

 

 なにしろヨーロッパは、1,000 年にもわたりイスラムの侵略に怯えつつも、イスラムの文化をアラブやビサンツから輸入していたからである。

中世における、イスラムとヨーロッパの関係

 イスラム勢力は中世をつうじ、アフリカ北岸などの地域を支配し、地中海の覇権を握った

 

 よってヨーロッパから見た場合、自分たちはイスラムとビサンツ帝国に周囲されているような気分であっただろう。

 

 とくに後ウマイヤ朝は、ヨーロッパにとっては喉元に突きつけられたナイフのようであったと思われる。

 

 そうしたことからヨーロッパは、13 世紀における十字軍の時代まで、外部へ進出するということはなかった。

 

 しかしその停滞は、「発展的停滞」である。

 

 ヨーロッパは1,000 年近くもひとつの領域に閉ざされていたため、その期間中にヨーロッパ独自の文明が形成され外へ向けてのエネルギーが蓄えられた

 

 この点は、近世以降におけるヨーロッパ諸国の植民活動へとつながる。

 

 また中世以降のヨーロッパには、香辛料織物等、イスラム諸国から輸入されたものが多い。

 

 ここから大航海時代とは、そうした文物をヨーロッパ諸国がイスラム商人を通さず、直接に入手しようとしたことから始まる。

 

 つまりは、ヨーロッパの海外進出は、イスラム勢力が間接的に関与したということである。

 

Gアッバース朝と後ウマイヤ朝-中世の覇者、中世西洋の抑圧者
中世における、アッバース朝と後ウマイヤ朝の領域
借用元 http://sinba.seesaa.net/article/5180958.html

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管理人 水無川 流也