「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

ビザンツの歴史的段階

 前ページの検証をふまえると、ビザンツも現代のアメリカ同様その国家原理は前時代のものだということがは明確である。

 

 ビザンツはローマ帝国よりさまざまな文明を受け継いだが、それを後退させることはあっても、発展させることはなかった。

 

 たとえば人民支配の方法も、中世をつうじてヨーロッパでは発達した。

 

 〈自由都市〉の出現や社会体制の進化により、ヨーロッパでは近世において、〈ブルジョワジー〉という階級も出現した。

 

 またこのブルジョワジーは、ヨーロッパにおける市場社会を、現在のものにまで成長させた。

 

 ところが、ビザンツの場合ではどうか?

 

 ビザンツにおいては、一時的な身分の上昇はあったが、基本的に農民は〈農奴〉という半奴隷状態におかれ中世末期の時点で待遇の改善は見られなかった

 

 これというのも、ギリシャ時代の生産様式は、〈奴隷制〉に依るものだったからであろう。

 

 ギリシャ人の国家であるビザンツが、国を運営するにあたっては、どうしても産業の生産者を奴隷状態に置くことしかできないのだ。

 

 こうしたわけでビザンツ帝国は、1,000 年にわたる中世で、国力や領土をどんどんと縮小させながら、中世の末期に滅びたのである。

 

 ところで、ビザンツ帝国を滅亡させたのが〈オスマン・トルコ〉であるのは、興味深い事実である。

 

 なぜなら、ここでは詳述できないが、オスマン・トルコもまた、国家のあり方としてはビザンツ帝国同様の、「時代遅れの大国」だからである。

ビサンツ帝国の歴史的意義

 では最後に、ビザンツ帝国が果たした歴史的役割について述べる。

 

 それは端的には、以下の 3 点である。

 

 

@ スラブ地域をギリシャ正教圏に取りこんだ

 

A イスラム勢力に対する、ヨーロッパの防波堤となった

 

B 中世、近世初頭をつうじ、ヨーロッパにイスラム経由での古代ギリシャ文化を伝えた

 

 

 まず >@ スラブ地域をギリシャ正教圏に取りこんだ である。

 

 このことは、次のページでくわしく述べる。

 

 もともとビザンツ帝国の領土であるバルカン半島は、現在のロシアやウクライナのスラブ文化圏とは、地続きである。

 

 ビザンツ帝国は自国領を広げたくとも、西方のヨーロッパはすでにひとつの領域として完成している。

 

 また南方にはイスラム勢力がおり、彼らの実力は自分たちより圧倒的に強い、という事情があった。

 

 するとビザンツの行き先は、北方のスラブ圏しかなかった。

 

 じつは現在のロシア南西部には、7 世紀から 10 世紀にかけ、カザール(ハザール)汗国という遊牧民の大国が存在していた。

 

Aビザンツ帝国 3.帝国の歴史的意義と段階
カザール(ハザール)汗国
借用元 http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/5614/usi3.html

 

 しかしカザールは、10 世紀にキエフ大公国に滅ぼされた。

 

 よってビザンツは、北方への交通が可能となった。

 

 くわえて当時は、「中世の温暖期」と呼ばれる時代で、ヨーロッパ全体が暖かい時期であった。

 

 そうしたことから、ビサンツ、スラブ双方にとって行き来がしやすくなったので、スラブ方面へとギリシャ正教が伝えられることとなる。

 

 これによりスラブ文化圏は、中世から近世にかけギリシャ正教の領域となっていく

 

 次に >A イスラム勢力に対する、ヨーロッパの防波堤となった である。

 

 厳密に述べれば、ビザンツの国力は時代とともに落ちていき、やがて地中海はじょじょにイスラム勢力の手に落ちていくこととなった。

 

 ところで陸でのルートは、かろうじてビザンツが存在し、また上記カザール汗国があったため、イスラム勢力は直接的にはヨーロッパへ攻めこめない状況であった。

 

 最後に >B 中世、近世初頭をつうじ、ヨーロッパにイスラム経由での古代ギリシャ文化を伝えた である。

 

 全盛期のイスラム圏内でギリシャ文化が盛んに研究され、それがヨーロッパへ編入され、ルネサンスを生んだことは、よく知られている。

 

 その際にはビザンツは、ヨーロッパとイスラム諸国における中継点となった。

 

 またこの点は、戦争時も平和時もふくめてのものである。

 

 つまり十字軍のような軍事的な動きにより、ビザンツを中継するかたちで、イスラムより古代ギリシャ文化の伝播はあった。

 

 その一方で、通常の商業や外交においても、イスラム圏から、あるいは場合によってはビザンツから直接、ヨーロッパへギリシャ文化が伝えられることもあった。

 

 だが、もっともルネサンスに影響をあたえた動きは、以下のものとも言われる。

 

 中世末期にビザンツの学者たちが、オスマン・トルコの脅威から、イタリアに移り、そこでギリシャ語を伝えたことである。

 

 以上の点から言えることは、ビザンツ帝国は世界の歴史上さほど積極的に独創的なものは生んでいない、ということである。

 

 アラブ世界、および古代西洋から近代ヨーロッパへの橋渡しとなった点、およびスラブ世界にギリシャ正教を伝えた点こそが、ビザンツ帝国の歴史的意義である。

 

 つまりビザンツ帝国とは、歴史の媒介者という点にこそ意味があり単独ではそれほど価値のある国ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

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管理人 水無川 流也