「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

Eバラ戦争が決定づけた、イングランドとスコットランド Eバラ戦争が決定づけた、イングランドとスコットランド

イギリス絶対王政の確立

百年戦争後、イギリスではランカスター・ヨーク家のあいだで王位継承戦争が起こった。

 

 その結果として、1485 年にランカスター派のヘンリー 7 世が即位し、内乱は治まった。

 

 その過程で騎士や諸侯は、両家に分かれて戦ったため彼らの多くは滅亡した

 

 イギリスではこのようにして、邪魔者である地方の有力者が消えるかたちで、国王による絶対王政が確立された。

 

 イギリスに見られる中世の段階における絶対王権の樹立は、他のヨーロッパ諸国よりも早い方である。

 

 この現象は、中世中期の段階で、すでにノルマン人による王朝が興っていたイギリスの特殊性によるものである。

 

 これにより島国という特性と相まってイギリスは、他の大陸にある欧州諸国をリードするかたちで、近世へと入っていく。

 

Eバラ戦争が決定づけた、イングランドとスコットランド
バラ戦争の様子
借用元 http://www5.ocn.ne.jp/~oka-nsc/gardening2.htm

「国内不統一」という状況が生んだ、特殊な国民性

 ところでイギリスでは、たしかに他のヨーロッパ諸国に先駆け絶対王政は完成した。

 

 しかしまず、現在のわれわれが知るイギリスとは、〈United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland〉である。

 

 これはイングランド、ウェールズ、スコットランド、およびアイルランドの北部 6 州を指す。

 

Eバラ戦争が決定づけた、イングランドとスコットランド
現在のイギリス
借用元 http://www.tofl.jp/uk/index.php

 

 ところで、イングランドはアングロ・サクソンの国であるが、他のウェールズ、スコットランド、およびアイルランドは、ヨーロッパ先住民族であるケルト人が多く住む国だ。

 

 ウェールズは 13 世紀にイギリスに併合されたが、スコットランドやアイルランドは〈イギリス〉とは別の国として、近世まで残った

 

 この点が、近現代イギリス人のもつ、ユニークな二面性を生んだのである。

 

 というのはまず、一般に〈イギリス人〉とは、ロマン主義的な心性と同時に合理主義精神を併せもった国民だからである。

 

 まずロマン主義とは、一般に理性よりも感情や神秘性を重んじる立場を指す。

 

 この点でイギリスは、文学の領域でワーズワース、バイロンなどを輩出し、また芸術様式としては、〈英国式庭園〉などを生んでいる。

 

 英国式庭園の特徴は、庭の植物に極力手を加えず、あるがままの状態で放置することである。

 

 一方、英国式庭園と対極にあるとされる〈フランス式庭園〉は、樹木や花を几帳面に人の手で整理するところに特性がある。

 

 こうした点がイギリス人のロマン主義敵側面だとしたら、イギリスが生んだ哲学〈イギリス経験論〉や、近代における産業革命などは、まさにイギリス人による合理主義の現われである。

 

 このようなイギリスの合理精神は、良く言えば明瞭であるが悪く言えば即物的である。

 

たとえばイギリス経験論という哲学は、「環境が個物(人間)にあたえる影響」を素直に受け入れた。

 

 その結果、「人間の認識とは、経験により形成された産物だ」という理解に、イギリス人は早い時期に到達した。

 

 この発想はもちろん、「先天的に“”によりあたえられた観念」というものを否定している。

 

 つまりイギリス人は、ヨーロッパで宗教戦争が本格化していた時代にすでに「神の不在」という概念を受容していたのである。

 

 ところがこの認識も、すぐに袋小路に陥る。

 

 なぜなら、たとえば人間とはあらゆる経験を受け入れられる存在だとするなれば、その経験を受容する、認識の大本とは何か、という問いに、この哲学は答えれないからである。

 

 そのためイギリス経験論は結局、哲学者、デヴィッド・ヒュームにより、「つまりは人間は、事象の根源を認識することはできない。われわれが確実に信用できるのは、五感をつうじて感得しうる経験だけだ」という、懐疑主義・不可知論へと陥った。

 

またイギリスが 19 世紀に生んだ〈産業革命〉は、たしかにそれ自体は人間の生活を革命的に快適、かつ豊かにした。

 

 しかし〈産業革命〉とは、その時代までに発達した自然科学の原理や発明・発見を、科学技術へと応用することであり、決して科学”そのものを深める営みではない

 

 つまりは産業革命とは、意地悪く言ってしまえば実用主義、功利主義の産物である。

 

 そしてデヴィッド・ヒュームが生まれたのも、またおもに産業革命をリードしたのも、スコットランドである。

 

 すなわちイギリスにおいては、端的にゲルマン的心性である〈ロマン主義〉はイングランド人のものである。

 

 一方逆に、〈合理主義的精神〉はスコットランド人の民族性であると、やや乱暴に区分けができる。

 

 およびここから、おなじイギリス国内において、対照的な発想や文化が生まれたのは、以下の理由からと考えられる。

 

 それは近世(1707 年) において、イングランドとスコットランドという好対照な国民性をもつ両国が合併されたが、それまでに両者の個性がおたがい充分に成熟されたから

アングロ・サクソンとケルト、それぞれの民族性形成のあり方

 ではここで、なぜゲルマン人の一派であるアングロ・サクソン人と、ケルト族であるスコットランド人では、そのように国民性の違いが現れたのか、仮説を述べる。

 

 またはじめにお断りしておくが、これまで何度も述べているように、まず純粋な〈ゲルマン人〉、〈ケルト人〉という人種は存在しない。

 

 これらはただ単に、たまたま同時代の同空間に棲息した、複数の民族の総称である。

 

 ただそうは言っても、「ゲルマン人」、「ケルト人」と呼ばれる人種に、一定の共通性は存在する。

 

 たとえばゲルマン人〉の多くは、前史時代には奥深い自然に棲んでいたためおのずとアニミズム的な自然崇拝の観念をもっていたようである。

 

 もっとも〈ゲルマン人〉たちは、ヨーロッパ内に定住を始めてからは、崇拝の対象が“自然”から“”に変わった

 

 ここを言い換えれば、キリスト教を知るまでのゲルマン人にとっては、「自然そのものが神」だったのであろう。

 

 一方、〈ケルト人〉であるが、こちらも中世以前は、ヨーロッパの自然のなかで集住をしていた。

 

 よって、自然崇拝的な宗教も信仰していた。

 

 しかし〈ケルト人〉は〈ゲルマン人〉と異なり、その時代の最新文明に接する機会が多かった

 

 それはたとえば、エトルリア人やギリシャ人から受け継いだ金属文明などである。

 

 したがってケルト人は、臨機応変に異文化を受け入れ自分たちの文化を高めていたのである。

 

 もちろん、ゲルマン人の文化も、レベルが格段に低いものではなかった。

 

 しかしゲルマン人は、ケルト人ほど優れた異文化に触れる機会は少なかったであろう。

 

 また長期間、暗い森のなかで暮らしたゲルマン人は、どうしても万物に“”を見る汎神論的、神秘主義的性質を、その精神に帯びたであろう。

 

 こうした点から、比較的柔軟で、物事をありのままに受け入れる「ケルト人気質と、現象の背後に重々しく“神性”を見出す「ゲルマン人気質の違いは形成されたと考えられる。

 

 そのような対照的な価値観をもつ両民族が、イギリスというおなじ地域に何百年も居住したのである。

 

 ならばひとつの国民性のなかに、一見、矛盾した性格が混在するということも、ありえるだろう。

 

Eバラ戦争が決定づけた、イングランドとスコットランド
現代のスコットランド人
借用元 http://zumodenaranja.blog.so-net.ne.jp/2006-03-17-1

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管理人 水無川 流也