
○第二次民族移動―西洋史学の慣用句
ヴァイキングとは?
われわれ日本人が〈ヴァイキング〉に対してもっている像は、ほとんどがステレオタイプのものか、あるいは実情と異なっているものでしかない。
たとえば〈ヴァイキング〉とは、単なる海賊ととらえられていることもある。
しかし現実には、歴史上のヴァイキングはかならずしも略奪行為を本職としていたわけではない。
むしろヴァイキングの生業は、商行為や漁業である場合が多かったのだ。
またヴァイキングの活動は、海上がメインだったわけでもない。
ヴァイキングたちは自国の地上では農業や狩猟、牧畜などを営んでいた。
ただし船で進出した地域をそのまま支配し、国を造るということも、ひんぱんにおこなっていただけだ。
ヨーロッパでは 8 〜 10 世紀という中世中期に、ヴァイキングたちの活動はもっとも盛んであった。
ヴァイキングが使用したとされる、〈ヴァイキング船〉
借用元 http://plaza.rakuten.co.jp/laurier/diary/201002040000/
彼らの歴史的な行動から、「“ヴァイキング”とは何か」という本質を、このページと次のページで明らかにさせる。
ヴァイキングの起源
ヨーロッパ中世に活動したヴァイキングは、おもにスカンディナヴィア半島に住んでいた〈ノース人〉という人種である。
しかし〈ノース人〉という、単一民族が存在していたわけではない。
〈ノース人〉とはあくまで、「古ノルド語」という言葉から派生した類似の言語を使用し、スカンディナヴィアという地域に住んでいた複数の民族の総称である。
彼らのあいだに、特定で単独の帰属意識があったわけではない。
この点は、〈ケルト人〉や〈ゲルマン人〉が史学会では十把一絡げにあつかわれるのと、同様の事情である。
つまり〈ノース人〉というのは、ゲルマン民族大移動以前、すなわち中世以前からスカンディナヴィアに住んでいた住民を、一括で表現しただけのものだ。
ヴァイキング活動が始まった理由
8 世紀ごろ、ヴァイキングたちが本格的にヨーロッパ方面へ進出してくると、ノース人たちは〈ノルマン人〉と呼ばれるようになる。
では、なぜノルマン人たちは郷土を出て、他国へと戦争や侵略を仕掛けたのであろうか?
まずノルマン人の活動期間は、前述したように 8 〜 10 世紀である。
このころは地球の寒冷化が終わり、「中世の温暖期」と呼ばれる暖かい気候が続いた時期だ。
通常ならば民族の大移動期とは、ゲルマン人や匈奴に見られるように、居住地の気温が下がったとき、暖や食糧を求め、おこなわれるものである。
ところがノルマン人たちは、気候が温暖になってから、活動を開始した。
これは、なぜであろうか?
それについて、以下のような仮説が述べられている。
まず気温が上昇したため、ノルマン人たちは居住地での農業や漁業により、獲得できる食糧が増え、そのため人口が増えたというものだ。
そうしてノルマン人たちは数が増加した一族を維持するため、外洋へ進出したというのである。
これはとりあえず、説得力のある説である。
次に注目すべきは、ヴァイキングの活動は、ちょうどフランク王国がキリスト教化していく時期と重なる点である。
ここからノルマン人たちは、そうしたフランク王国の動きに抵抗したとも考えられる。
なぜならノルマン人たちには、キリスト教と異なる北欧の神話にもとづく宗教を信仰していたからだ。
よってヴァイキングの活動とは、ノルマン人たちが、フランク王国によるキリスト教伝道の動きを警戒したものという可能性もある。
くわえてフランク王国の成立が強固になると、ノルマン人たちは陸路での南下が不可能となる。
そうすると、ノルマン人たちの通商活動に支障が出る。
そうした事情から、ノルマン人たちは海からヨーロッパを攻めたとも見なすことができる。
ヴァイキング活動の歴史
では具体的に、ヴァイキングは歴史上、どのような活動をおこなったのか。見てみる。
まず西ヨーロッパにおいては、ヴァイキングたちはフランス北部を征服し、〈ノルマンディー公国〉を造った。
ノルマンディー公国
借用元 http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXZZO65573210Q4A120C1000000&uah=DF070120130435
ここから別れた一派はさらに地中海に侵入し、イタリアとシチリア島に〈両シチリア王国〉を建国した。
くわえてノルマン人たちは、現在のイギリスである〈アングロ・サクソン王国〉にも進出した。
一時は当地のアルフレッド大王に撃退されたが、結局、1016年、ノルマン人の一派であるデーン人の王、クヌートにより征服がなされた。
その後、デーン人たちはアングロ・サクソン王家による逆襲を撃退し、1066 年にはノルマンディー公ウィリアムが〈ウィリアム 1 世〉として即位し、〈ノルマン朝〉を建てた。
ノルマンディー公ウィリアム
借用元 http://blog.goo.ne.jp/daimajin-b/e/f958598234b48509e61fb9711d0ac38b
これらノルマン人によるイングランドでの侵略活動は、「ノルマン・コンクエスト」と呼ばれている。
さらにノルマン人は、スラヴ人たちが居住するヨーロッパ東部へも進出し、9 世紀に〈ノヴゴロド国〉、および〈キエフ国〉を建国し、これが現在のロシアにおける起源となった。
またノルマン人が進出したのは、ヨーロッパだけではない。
彼らはアイスランドやグリーンランドなどにも入植し、コロンブスよりも 500 年も早く、アメリカ大陸に到着していた。
くわえて彼らの現住地にも、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンなどが建国された。
これらの国々は、そのまま現代へと続いている。
しかしこれらの国々が結局はキリスト教化されたため、ヴァイキングの活動も終わった。
ヨーロッパにおける、ヴァイキングについての記録
そうした経緯によりノルマン人たちは、ヨーロッパ各地を占領したのである。
当然に、ヨーロッパには多くのヴァイキングによる文化が伝えられたはずだ。
しかしそれについての記録は、極端に少ない。
その理由は、以下の事情から察せられる。
まず支配されたヨーロッパからすれば、自国が北方の野蛮人に支配されたという事実は、認めたくない。
よって支配者についての記述は、極端に少なくても当然である。
また侵略者側の観点からは、あくまで自分たちが異国を支配する正当性・正統性を主張したいのだ。
ならば自分たちが武力で当地を征服したからこそ、そこの支配者として君臨しているという事実は、極力、隠したいであろう。
したがって、征服者側からも当地征服の過程は、できるだけ残したくないのである。
そのように支配者・被支配者双方の利害が一致しているため、ヨーロッパにはヴァイキングについての記述が少ないのである。
ちなみにこれとおなじ現象は、中国にも見られる。
中国は歴史上、騎馬民族に何度も支配されたにもかかわらず、騎馬民族にかんする情報は、極度に少ないか、あるいは歪んでいるかしている。
これは故意的に、あるいは場合によっては無意識的に、騎馬民族侵略の正しい歴史を隠蔽しようしているからだ。
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