「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

H〈真・善・美〉の意味と、ソクラテスの登場-真理とは? H〈真・善・美〉の意味と、ソクラテスの登場-真理とは?

ソクラテス現わる

 紀元前 4 世紀、アテネにソクラテスという哲学者が現れた。一般的に哲学史においては、古代ギリシャ哲学は「ソクラテス以前・以後」と解釈される。

 

 それほどまでに、ソクラテス出現のインパクトは大きかったのだ。

 

 ソクラテスの偉大性は数多くあるが、ここにすべては挙げられない。

 

 だが彼のもっとも偉大な業績とは人との対話をつうじ、哲学の課題を〈真・善・美〉の 3 要素にまとめたことである。

 

 ここを説明していく。

〈真・善・美〉とは、何か?

 西洋哲学史においては、極端に述べれば、ソクラテスから近代ドイツにおけるカントまで 2,000 年にわたり〈真・善・美〉が哲学の主題だったと言える。

 

 ではここで、〈真・善・美〉とは何か? またなぜ、〈真・善・美〉がそれほどまでに重要なのか、解説する。

 

 まず“”とは、この世界を支配する法則である。

 

 次に“”とは、人間がおこなうべき正しい行動を指す。

 

 最後に“”とは、人間が何をもって対象を「美しい」と判断するかである。

 

 真・善・美〉を理解するカギは、それぞれの対象物を、認識者がどの認識能力で把握するか、という点にある。

 

 順番が逆になるが、まず“”から説く。

 

 あるものを見て「美しい」と思う。またはある音を聴いて「美しい」と感じる能力は、〈五感〉においてなされる。

 

 〈五感〉は、視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚からなる。重要な点は、この五感の所有者は人間だけとはかぎらない点である。

 

 たとえば孔雀のオスは、自分の羽の美しさをメスに見せつけ、求愛する。またムシは、異性のムシが発する声に惹かれる。

 

H〈真・善・美〉の意味と、ソクラテスの登場-真理とは?
美しい孔雀の羽

 

 つまり端的に述べれば、〈五感〉とは“感覚器官”のことであり、また”とは、この感覚器官をつうじて感得できる真理である。

 

 さらにこの“”を感得できるのは、生命体だけだ。よって、〈美的感覚〉をもつかどうかが、生物と非生物を隔てる境界ともいえる。

 

 次に“”だ。“”とは“道徳規範”であり、これは人間しかもっていない。

 

 動物の世界にも掟はあるが、それはあくまで本能により統括されているものである。またその質は異なっても、倫理観をもたない民族は存在しない。

 

 そして物事の善し悪しを判別するのは、〈道徳感情〉という“常識”である。つまり“”とは、感情により識別される真理である。

 

 そうしたわけで、この〈道徳感情〉を所有するか、しないかが、人間と他の動物との差異である。

 

 最後に“”である。“”とは法則性であり、“”を理解するのは“知性”、あるいは“理性”である。

 

 知性”をもつのは人間であるが、それはかぎられた“知者”だけだ。つまりは凡人には、学問的な論理は理解できない。

 

よって“真”とは“知性”により認識される真理であり、また同時に、“真”の理解こそが、哲学者と常人を分けへだてるものである。

 

 つまり〈真・善・美〉の内容は、順番に述べれば「哲学的真理」「常識的真理」「感覚的真理」となる。

 

または“真理”を把握するにあたり、使用される認識能力は〈真・善・美〉の順で述べれば、“論理”“感情”“感覚”となる。

 

 さらにこれをそれぞれ認識者の側に立てば、おのおのの“真理”を理解するのは、順に「哲学者」、「一般的人間」、「生物」ということになる。

 

 また“真”は“善”以上に、“善”は“美”以上に、把握するにあたり高度な認識能力を必要とする。

 

この点を比喩的に述べれば、以下のようになる。

 

まず幼児は、物事を「キレイか、キレイでないか」で判別する。次に少年は、事象を「正しいか、そうでないか」で分別する。最後に青年は事物を「合理的か、そうでないか」で理解する。

 

ここから〈真・善・美〉とは、順に認識者の能力にしたがい、“真理”「解る」「分かる」「判る」ためのものといえる。

 

 また後代からの解釈では、〈真・善・美〉が対象とされるのはそれぞれ、“人文科学”“社会科学”“自然科学”ともできるだろう。

 

さらにつけ加えるならば、近代における教育の理念は、“知育”“徳育”“体育”がバランスよくなされることとされる。

 

 これらの項目はそれぞれ、以下に該当する。「知育=真」「徳育=善」「体育=美」である。

 

 こう述べると、以下のような疑問が出るかもしれない。「『知育=真』、『徳育=善』」はわかるけど、「体育=美」とは、どうして? と。

 

 その理由は端的に述べれば、健康な肉体というのは、美しいものだからである。だからこそギリシャ彫刻の人物像は、滑らかな肌をもつ“健康美”を表現しているのだ。

 

また一般的に子供の教育は、「体育(遊戯)」、「徳育(しつけ)」、「知育(勉強)」の順番でなされる。さらにこの点は、武道でいう〈心・技・体〉の概念にも一致する。
 

 

 言うまでもなく、「体=体育」、「心=徳育」、「技=知育」である。

 

 ここから〈真・善・美〉が、それらを把握するための認識能力の高さ順にならんでいることがわかるだろう。

 

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管理人 水無川 流也