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N孫子兵法の革新性と近代性-なぜ古代中国に生まれたか? N孫子兵法の革新性と近代性-なぜ古代中国に生まれたか?

孫子と兵法

 この項目の最後に、現在の国際社会や日本で根強い影響力がある諸子百家のひとりとして、孫子とその兵法について述べる。

 

 まず「孫子の兵法書」は、2,000 年以上前の書物であるが、これは近代戦にも充分すぎるほど、対応が可能なものである。

 

 伝説によると、かのナポレオン・ボナパルトは、『孫子』をつねに懐中に入れていたとされる。

 

 さらに第一次世界大戦で大敗したドイツ皇帝 ヴィルヘルム 2 世は、戦後になって、もし事前に『孫子』を読んでいたら、戦争に勝てたと悔やんだ。

 

 またアメリカのウエスト・ポイント米陸軍士官学校においては、『孫子』は長く副読本とされているらしい。

 

 およびわが国の戦国時代においては、多くの軍師たちが『孫氏』の戦術を駆使した。

 

 ちなみに当時の忍者たちが立てる行動の多くは、『孫子』の発想に基づいたものであった。

 

 くわえて戦争にかぎらず、『孫子』は現代、世界中のビジネスマンにも愛読されている。孫子の兵法をビジネスに活かす書物が氾濫していることは、周知である。

 

 このように春秋戦国時代の中国とは、西洋に 2,000 年も先駆け、近代的思考を実現したともいえる。

 

 これも中国という国の、宗教性の薄さゆえんである。

 

 ただそれゆえ、原理の発展はその時点で完成され、それ以後、2,000 年にわたり、文明の質が発展しないというのも、中国の特徴であるが。

孫子とは、何者か

 孫子という人物については、その実在に謎が多い。現在の時点で考えられるのは、二人の候補者である。

 

 まずは紀元前 6 世紀ごろ、斉の国で武将であった孫武である。だが孫武は、伝説上の活躍にもかかわらず、歴史的な記録にはまったく残っていない。

 

 またもう 1 人は、孫武の子孫とされる孫ピンである。孫ピンと彼が著した書物の実在は、ほぼ確実である。

 

 しかし孫ピンの書物はオリジナルのものが散逸しているので、どこまで孫ピンが書いたのか、わからないでいる。

 

 そうした事情から、現在残っている『孫子』は、すべて孫ピンの筆によるものではないか、という説もある。

 

N孫子兵法の革新性と近代性-なぜ古代中国に生まれたか?
孫子の兵法書

 

 いずれにせよ、当サイトで重要なことは、「孫子の正体」ではないので、この点は考慮しない。

『孫子』の内容

書物『孫子』において、述べられているのは、ほぼ以下のことである。

 

 

@大局的視野から、いかにムダな戦いをせずに、最終的な勝利を拾うか。

 

Aまた徹底した合理主義に立ち、兵力や戦術をどのように駆使するか。

 

Bそのため謀略や奇襲など、敵の心理の裏をかき、相手の意表をつく術を考える。

 

C以上の点のみを、純粋につきつめて考察しているため、『孫子』は精神論や特定の倫理観には、まったく依拠していない

『孫子』がもつ意味

 そうした点から、『孫子』が春秋戦国時代に記されたことは、どういう意味があるか?

 

 これは中国という国の先進性を表す同時に、中国人という人種の、宗教性、および倫理観の希薄さを意味する。

 

 『孫子』は、ある意味で目的のために手段は問わない。敵をワナにかけることも、平和時に二重スパイを活用することも、主張している。

 

 ということは、「なんでもあり」である。

 

 どんな民族にも戦争時であろうと、一定の決まりごとが存在する。

 

 またどのような国にも倫理規範があり、その基準は前近代のものなら、宗教により規定される。

 

 したがって戦時であろうとも、一般には制限が生じるものである。

 

 ところが『孫子』には、そうした制約がまったくない。

 

 この点は、中国人がどれほど功利的、現実主義的で、かつ宗教性をもたない民族であるかの証明である。

 

 さらに『孫子』には、戦争に勝利することにより実現すべき理念が、まったく書かれていない。

 

 たしかに『孫子』は、純粋な兵法書である。戦術・戦略のみが説かれるのも、ムリはない。

 

 だがどのような時代の、どのような軍隊であれ、戦術と同時に、戦争をおこなう大義名分は教えられる。

 

 ところが『孫子』と同時代に書かれた書物には、「戦争の大義」についてのものは、まったく見つからない。

 

 くわえて儒家である孟子も、「戦国時代には、正義のための戦争はなかった」と述べている(春秋に義戦なし)。

 

 

 こうした点からも、中華民族が宗教をもたなかった利点と欠陥、両者が見てとれる。

 

 すなわち中国人とは、西洋人より 2,000 年も早く近代的知性を獲得している

 

 だがまた同時に、彼らの当時による倫理観は、依然、宗教時代以前のものだったということである。

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管理人 水無川 流也