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N儒教は宗教か? 孔子が神も来世も説かなかった理由 N儒教は宗教か? 孔子が神も来世も説かなかった理由

諸子百家と後世

 諸子百家には、様々な個性的な人物がいる。しかしここでは現代、およびわが国にまで影響のある人物と思想のみを紹介する。

 

 この時代における思想は、基本的に儒教道教が二大流派であり、後代まで思想の継承者が現れたのは、ほぼこの二大学派のみと言っていい。

 

 そうしたわけで、まずは儒教と孔子について述べる。

孔子の一生と、後世への影響

 儒教の創始者とされる孔子は、紀元前 552 年、(ろ)の国に仕える貴族の家庭に生まれた。本名は「孔丘」である。

 

 孔丘は幼くして孤児となるも、おそらくはほぼ独学により、古代の〈(れい)〉を学んだ。礼とは、宮廷内でおこなわれる様々な催しの際に要求される、儀礼や儀式である。

 

 孔子は成人してから私塾を開き、多くの弟子たちに教えを授けた。また同時に、自分の教義を政策として採用してくれる諸侯を探し、中国大陸中を巡った。

 

 だが結局、孔子の教えはどこにも受け入れられることもなく、孔子は 73 歳で失望のうちに死去した。

 

 しかし孔子の死後、弟子たちは教団を形成し、それは巨大な思想団体となった。孔子の言行録は『論語』のなかで叙述され、中国最大の古典となった。

 

N儒教は宗教か? 孔子が神も来世も説かなかった理由
孔子

 

 孔子の死後、性善説を唱えた孟子や、性悪説を主張した荀子などにより、孔子の思想は受け継がれていった。

 

 やがて最終的に孔子の教えは〈儒教〉として、もっとも中国を代表する思想となった。

儒教の内容

 儒教とは、以下のような思想である。君子の政治を実現させ、仁義〉という理念と〈〉という作法を強調し、年齢や身分による上下関係を説くものだ。

 

 この内容からわかるように、儒教は深淵な哲学ではない。さらには、宗教でさえない。ひと言で述べるなら、実践的な倫理学にすぎない。

 

 なぜなら、孔子自身が「来世思想」、「生命の神秘」といった、哲学や宗教が対象とすべき事象を説くことを、拒絶しているからである。

 

 それが前ページの冒頭にある、「子、怪力乱神を語らず」である。儒教においては、〈〉という、抽象的な「神の意思」に近いものがあるだけである。

 

 この「天の意」により、為政者や民衆のあり方は規定される。

 

 もちろん〈天〉には、キリスト教における“”のような万能性も、またギリシャ神話やユダヤ教の神々がもつ、擬人化された「神としての人格性」もない。

 

 この点から儒教における〈〉とは、インド発生の宗教である、仏教やヒンズー教よりも発展が前段階の思想と言える。
 

 

 なぜなら仏教やヒンズー教は、たとえその本質は“無”であろうとも、「世界の根源物=ブラフマン」を深く探求していたからである。

 

 および儒教や『論語』の教えは、支配階級にはたいへんに都合がいい。

 

 というのは、儒教は一見、為政者の理念を説いているようでいて、それ以上に民衆の義務を強調しているからである

 

 もちろん中国諸王朝であろうとわが国であろうと、儒教を導入することで、天下が平和裡に治まった時代はある。

 

 しかし儒教の本質は、〈〉という概念に見られるごとく、形式的な教条である。

 

 もちろん当然に『論語』では、支配者は心を尽くして、政治をおこなうべき、と何度も述べられている。

 

 ところがこの点は、為政者にとっては、以下のような抜け道があるのである。

 

 「自分は儒教の教えを信奉し、〈〉を守っている。よって、自分は天に認められている。だから自分は、この世で何をしても許される。なぜなら自分の意思こそが、天の意思だからある」。

 

 現実問題として、中国の歴代王朝における王たちのなかで、孔子を権威化する者は多数、存在した。そうして彼らは、自分の非道な行為を正当化するのである。

 

 だがその点、儒教はうまくできている。というのは、儒教には「易姓(えきせい)革命」という思想が含まれているのだ。

 

 〈易姓革命〉とは、為政者の悪政により社会が立ち行かなくかれば、民衆はだれでもこれを倒し、王になってもかまわない、とする思想である。

 

 中国は革命の国であり、その中国で王朝の交替が起きるときは、たいていこの論理が使われた。

儒教の本質

 こうした点から儒教を概観すると、万年変わらぬ封建社会である中国にとっては、なるべくしてなった国家思想だとわかる。

 

 たとえば年齢や身分の上下により、態度や言葉遣いを変えること。あるいは男系家族の価値観から、妻や子供は家長に従い、家長を支えることを要求する点。

 

 これらの徳目を上は「国家」、下を「民衆」と変換すれば、それだけで封建国家における政治のあり方となる。

 

 このように儒教は、歴史の初期段階における統治思想だとわかる。

 

 しかし儒教によるイデオロギーは、未開時代のものより進展しているとも言えるのだ

 

 たとえば孔子登場以前の中国における〈礼〉とは、アニミズム的、シャーマニズム的なものであり、呪術と変わらないものだった。

 

 ところが儒教の教えは、そうした宗教的要素を排除して成り立っている。

 

 その点から述べれば、孔子は呪術を洗練化、近代化したとも言える。

 

 現代社会において多くの民族や国家が「政教分離」、「宗教からの離脱」、「社会の近代化」に悩まされている。

 

 だが中国は、2,500 年も前の時点で、国家原理を近代化してしまったので、上のような問題には、それほど苦しめられずにすんでいる。

 

 だから現代中国は人類最古の文明形態を、そのまま維持している唯一の国家なのに、共産主義〉という無神論イデオロギーを、簡単に受け入れられた。

 

その理由についてはもう一点、存在する。

 

 それは儒教も共産主義も、金儲けを悪とする思想であり、“商人”の存在を認めていない。

 

 儒教の立場に立てば、建前上は、人がカネに執着するのは、卑しいこととなるという点である。

 

 ところが本音では、商人はつねに共同体外部から、新しいモノや情報を運んでくる。これが封建体制にとっては、たいへんに邪魔なのである。

 

為政者から見れば、民衆がよけいなことを知ってしまい、自分の支配について疑問をもたれてしまうかもしれない。そうなれば、非常にやっかいである。

 

 また共産主義が商業を否定するのは、原則として富の独り占めを阻止するためである。

 

 ともかくそのようにして、封建制と共産主義は“建前として”「商業の否定」を謳う面で共通しており、相性がいいのである。

 

 そうしたわけで中国共産党は、現在の時点では成り立っている。

 

 しかしそれも、良し悪しである。

 

 なぜなら中国には、西洋人や日本人がもっているのような、宗教時代に貯えられるべき、文化の蓄積がない。

 

 よって現代中国は 21 世紀初頭の現代において、たしかに大国にはなりえた。

 

 だが中国の財産は、資源と、安い労働力と、日本や欧米からの借り物にすぎないテクノロジーしかない。

 

 したがって現時点から見て、中国発の、世界全体を牽引するような原理やイデオロギーは、とてもじゃないが、生まれそうもない。

 

 さらに中国人の民度は、ほぼ 2,000 年前のままである。だから中国人は進出した国々で、現地民とひんぱんに摩擦を起こしている。

 

 近年の中国では、『論語』を見直す運動があるそうだ。古代に成立した『論語』の無神論性は、意外と現代中国では、有効なのであろう。

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管理人 水無川 流也