「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

M古代インドで仏教はなぜ誕生し、消滅したか? M古代インドで仏教はなぜ誕生し、消滅したか?

仏教誕生

 紀元前 6 世紀ごろ、伝説によると王子として生まれたゴータマ・シッダールタ(以下 ブッダ)は、「生・老・病・死」がなぜ存在するのかに悩み、29 歳で出家した。

 

 ブッダは様々な修行の末、ついに“悟り”を開き、弟子たちに教えを授け、80 歳で入滅(死去)した。

 

 ブッダの死後、仏教には教義に様々な解釈が加えられ、ようやく教団として成立した。

 

 そうした仏教教団の教義を見て目につくのは、無常感と現世否定、および“”の概念である。

 

 まずは無常感であるが、仏教ではある物質や物事が固定した状態にあるのではなく、絶えず変化し、それが永遠に続くと考える。

 

 たとえば川の水は、人がそれを飲み、排泄され、空に向かって蒸発し雲となり、やがて雨となり、もとの川に還る。

 

 これが未来永劫ずっとくり返されるのである。

 

 次に現世否定だが、仏教ではこの世のものに対する執着から極力、離れることを勧める。よって仏教では、“”が徹底的に否定される。

 

 そして最後に“”だが、これは以下のように解釈される。

 

 万物は“”から生まれたのであり、したがって人間の本質も“”である。

 

 だから人間に付随する様々な不純物を取り去れば、〈解脱〉が可能となる。そうすることにより、この世の苦しみからも開放される。

 

 この観念は、ウパニシャッド哲学における〈梵我一如)と、論理的には同一である。

 

 人類における認識能力の発展史から見た場合、仏教の到達した認識はすでに彼岸、およびその彼岸と人間との関係性にまでおよんでいる。

 

 これは古代中国の思想よりは、発展したものといえる。

 

 なぜなら儒教は「怪力乱神を語らず」と、来世についての説明さえ拒否した。

 

 また道教は、「桃源郷思想」に見られるように、あの世を現世からの抽象的な延長としかとらえなかったからである。

 

 しかしながら仏教における本質は、“”にすぎない。まず解脱とは“完全無”である。ところが輪廻転生とは“無限の有”である。

 

仏教の段階において人類は来世を把握できるようになったが、それでもこのように両極端な理解に留まっていたと言える。

仏教の受容

 仏教はインドにおいては〈マウリヤ朝〉におけるアショーカ王の時代から、1,000 年ほど国家宗教の位置を占めた。

 

M古代インドで仏教はなぜ誕生し、消滅したか?
アショーカ王
借用元 http://1000ya.isis.ne.jp/1021.html

 

 現世への無関心を説く仏教が、国家宗教になるというのは、じつに皮肉なことである。

 

 しかしこれは、仏教の性格を見れば、当然と言える

 

 仏教には〈五戒〉や〈四諦・八正道(したい、はっしょうどう)〉という教義があるため、そうした教えを国民の道徳観念にすれば、国の統治はしやすいのである。

 

 仏教は苦行や不殺傷を原則としているため、被支配者からすれば「生きるのが苦しいのは、当り前」「人を殺してまで、現状を変えるなど、許されない」と思うのである。

 

M古代インドで仏教はなぜ誕生し、消滅したか?          
八正道 徳目
借用元 http://www.genshu.gr.jp/Local/Owari/oshie/osyakasama/01.html

 

 

M古代インドで仏教はなぜ誕生し、消滅したか?
八正道 図
借用元 http://projectishizue.blog60.fc2.com/blog-entry-2010.html

 

 

 この点は、「最後の審判=世界の終末」を前提としながら、西洋において 1,000 年以上の支配イデオロギーとなったキリスト教と同一である。

 

 ところが仏教は、中世になってからは本国であるインドでは、ほとんど信仰されなくなった。

 

 その理由は、世界宗教になりえた仏教の普遍性にある。

 

 そもそも仏教は、すべての人間は平等であるとした。ところがインドとは、バラモンを頂点とするカースト制度が根づいた国である。

 

 仏教は当初、当時に台頭をはじめた商人や民衆が属する、ヴァイシャ階級に支持された。

 

その時代の商人は、ローマ帝国などとの貿易などにより、潤っていたからである。

 

 ところがローマ帝国が東西に分裂すると、インドでは商業自体が振るわなくなった。

 

 そうすると商人の力は落ちていった。

 

 また代わりに、数千年もインドにしっかりと根を下ろしたカースト制度を前提とする、ヒンズー教が信仰されるようになった。

 

 さらに皮肉なことに仏教は、本国・インドでの影響力が落ちていくのと反比例して、他国に普及していった。

 

 この点もまた、キリスト教と同様である。

仏教が世界宗教になれた理由

 仏教が前近代において、広くアジア全域で信仰された要因は、どんなものでも受け入れる仏教の包容力にある。

 

 仏教における究極目的は、たとえそれが建前化したとしても、個人が“”となり、解脱をなすことである。

 

仏教においては、世界の創造者という意味での“”をもたない。

 

 ところで仏教はキリスト教、イスラム教とならんで、世界三大宗教のひとつに数えられる。

 

 だがこうした点から、「そもそも仏教は、宗教と呼べるのか?」という指摘をひんぱんに受けるのである。

 

 なぜなら後世の仏教においては、「解脱する」ことは、「成仏する」と言われるからだ。

 

 もちろん“”とは、ブッダのことである。

 

 仏教の理念は信者が死後、「成仏する」ことにある。つまりは「ブッダになる」のだ。

 

 これは上座部仏教の教えにしたがっての、厳しい修行の結果であろうと、大乗仏教の戒律を守ることであろうと、変わらない。

 

 これを「衆生済度(しゅじょうさいど)」と言う。

 

 そして仏教においては、ブッダが最高の存在者であり、神々は仏法の守護神でしかない。

 

 だがこの点を逆に言えば、仏教においては個人が解脱することが最優先なため、他宗のどんな神も、仏法の守護神として、取りこめるということである。

 

 たとえば仏教の神として有名なのは、〈阿修羅〉などがある。

 

 この阿修羅のルーツは、ゾロアスター教における主神である、アフラ・マズダーと同一だと言われる。

 

 また古代インドの神、〈ブラフマー〉も仏教では守護神〈梵天〉となっている。

 

M古代インドで仏教はなぜ誕生し、消滅したか?
梵天
借用元 http://matome.naver.jp/odai/2134767069733240901/2134783814247132403

 

 このように仏教は、中国、チベット、ベトナム、ビルマ(ミャンマー)、タイ、カンボジア、日本などで、それぞれかたちを変えて受け入れられた。

 

 またやや余談になるが、キリスト教も成立過程において、仏教からつよく影響を受けたとも言われる。

 

 というのは、ブッダとイエス、それぞれの伝説が酷似しているからである

 

 紀元前後のインドは、ローマ帝国とおもに商業的な交流があったので、これは充分にありえることである。

 

 最後に仏教の歴史的意義とは、ひと言で述べれば、前近代のアジアにおいて、支配イデオロギーになった点である。

 

 さらに仏教という教え自体も、その柔軟性のため、広い空間において、長い時間を生き抜けたとも言える。

 

 また仏教は、道教、儒教、神道などと混じり合いながら、道徳規範、もしくは個人の救済に成りえたともできるだろう。

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管理人 水無川 流也