「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

G古代ギリシャ史を、人間の認識成長に当てはめれば G古代ギリシャ史を、人間の認識成長に当てはめれば

○人間はポリス的動物である―アリストテレス

古代ギリシャ人の認識レベル

 これまでいくつかの古代文明を見てきたが、ここにきてはじめて、西洋における初の古代国家をとりあげる。

 

 古代ギリシャである。

 

 ここまでは人類における認識の発展史として歴史を見てきたが、古代ギリシャ人の認識能力とは、どのあたりまで向上していたのだろうか?

 

 まず結論から述べるならば、古代ギリシャ人の時代にいたってはじめて、人類は“理性”により「自分自身=人間」を客観視することができるようになった。

 

 このことは、古代ギリシャ人が信仰した宗教を見ればわかる。

古代ギリシャ神話

 ご存知のように、古代ギリシャ人の宗教とは、様々な神話に彩られた神々が登場することで有名だ。

 

 ギリシャ神話においては、主神ゼウス、太陽神アポロン、地母神ガイア、海神ポセイドンなどが縦横無尽に天地で躍動し、物語を形成する。

 

G古代ギリシャ史を、人間の認識成長に当てはめれば
ゼウス像
借用元 http://efsf.blog71.fc2.com/blog-entry-389.html

 

 ギリシャ神話を読むにあたり着目すべき点は、以下の 2 点である。

 

 第一は、神々の性格が喜怒哀楽をもった、じつに人間らしいものであるところ。神が怒りや嫉妬に狂い、失敗や悪事をくり返すのである。

 

 次の着眼点は、世界そのものだけでなく、世界を創造した神々でさえ、どのように誕生したのか述べられているところだ。

 

 ここでは第一点のみ、説明する。二点目の問題は、次の章『哲学の登場』でくわしく述べる。

 

 まず“神々”が容姿とともに、人格まで人間らしさをもつに至ったのは、人類の宗教史において、たいへんな進歩である。

 

 はじめにたとえば中国における“神”とは、〈天〉というじつに抽象的で、実体をもたない意思だけの存在であった。

 

 それに対しギリシャ神話では、神々が人間同様の肉体をまとい、感情をもつのである。  

 

 この事実が示すことは、人類は古代ギリシャの段階において、自身があがめる対象にさえ、自己を投影できるようになったということだ。

 

 つまり自分自身を知る」ことが、できるようになったということである。

 

 これがどれだけ偉大なことかといえば、子供を見てみればわかる。

 

 まず生まれたばかりの赤ん坊は、“自我”をもたない。

 

 よって赤子にとっては、「自分は世界であり、世界は自分」としか認識できない。

 

 ところが子供は 3〜4 歳になり、いわゆる「物心つく」段階になると、ようやく自分の父や母、保育園の先生など「自分以外の人間=他者」の存在がわかるようになる。

 

 つまり他人を対象化できるようになるのだ。ここではじめて子供は、“他人”を介して“自分”の存在を把握できるようになる。

 

 「この女の人は、お母さん。あの男の人は、お父さん。人間は一人ひとり違う。だったら自分も、なんらかの“属性”をもった人間のひとりだ」という理解が、可能となるのだ。

 

 古代ギリシャとは、人類の認識能力がその時点まで高まった時代である。
 またギリシャ神話における神々の姿形は、その点を証明している。

 

 人類の宗教とはまず、万物に霊性を認める“アニミズム”からはじまるということは、『@人類の誕生 サルからヒトへー進化の仮説』のページで述べた。

 

 アニミズムにおいては、人は石や木、星や動物などのなかにも、「神の意思」を見る。

 

 だがこの観念が発達してくると、崇拝対象に元来の属性とともに「人間らしさ」が混じりこみ、奇抜な外観、性格を帯びるようになる。

 

 これは、古代インドやエジプトの宗教における神や怪物の姿を見ればいい。

 

 「頭部が象で、その下が 4 本の腕をもつ人間」だったり、「顔が人間で、身体がライオン」だったりする。

 

 これはアニミズムが本格的な宗教へと転化する、過渡期的状態であると解釈できる。

 

G古代ギリシャ史を、人間の認識成長に当てはめれば
エジプトにおける異形の怪物・スフィンクス

 

 ところがギリシャ神話においては、崇拝対象が純化され、ようやくそのなかに「自分自身=人間」を認識できるようになったのだ。

 

 宗教における“”とは、端的に定義づければ以下のようなものである。

 

 「本能を失った人間が、本能の代わりに自分たちを導くように、自分たち自身で創造した〈代理親〉」。

 

 つまり“”を創ったのも人間なのだから、当然に“”は「親のような人間性、要は人間の親としての人格・容姿」をもつはずである。

 

 古代ギリシャにおいて人類は、“”を“”として正しく把握できるようになった。

 

 これを子供の例で喩えるなら、以下のようになる。

 

 「お父さんはおっかないが、べつに鬼ではなく、人間の大人。お母さんは温かくて優しいけど、女神さまではなく、大人の女性。そして自分は、その二人の人間から生まれた、人間の子供」という認識が可能となったのだ。

古代ギリシャ史 概観

 ここで簡単に、古代ギリシャ全史を概略する。

 

 まずギリシャとは、南欧にあるバルカン半島最南端に位置する地域だ。ギリシャは地中海に囲まれており、海上の領域として多くの島をもっている。

 

 この島々で、紀元前 4,000 年ごろから、エーゲ文明という文明が、ギリシャ本土にさきがけ発生した。

 

 エーゲ文明では、金属や文字が使用され、政治体制は王侯貴族が支配するアジア的な専制体制だった。このエーゲ文明は、紀元前 1,200 年ごろ、突如、崩壊した。

 

 この後、空白の 400 年を経て、紀元前 800 年ごろからギリシャ本土では、人々が共同体をつくり集住を始めた。これを〈ポリス〉という。

 

 市民たちは国防や戦争においては団結し、集団戦術で戦った。ギリシャ国内には、2 つの大国があった。ひとつは〈アテネ〉で、もうひとつが〈スパルタ〉である。

 

G古代ギリシャ史を、人間の認識成長に当てはめれば
古代ギリシャ兵による重装歩兵部隊

 

 アテネは貴族制から民主制へと移行した国家であり、スパルタは全体主義的軍事国家だ。

 

 アテネは貿易活動により成り立っており、政治は住民みんなでが話し合いで物事を決める〈直接民主制〉がとられた。

 

 共同体の成員は「市民」と呼ばれ、彼らの生活、とくに家事は大勢の奴隷による労働で成立していた。

 

 もうひとつのポリス、スパルタは全体主義的軍事国家だ。

 

 アテネは貴族制から民主制へと移行した国家であり、スパルタは軍事的指導者である貴族が政治の実権を握っていた。
 

 

 ギリシャは紀元前 499 年から 449 年にかけ、当時の世界最強国、アケメネス朝ペルシャと戦い、これを破った。

 

 その後ギリシャは、アテネを中心にまとまろうとしていたが、これにスパルタが反発した。

 

 やがてアテネとスパルタのあいだで〈ペロポネソス戦争〉が勃発し、スパルタが勝利した。

 

 しかし両国とも疲弊し、政治的腐敗がひどくなったので、やがてギリシャ全土は北方の国、マケドニアに支配されるようになった。

 

 紀元前 4 世紀のことである。これにより、古代ギリシャ時代は終焉をむかえる。

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管理人 水無川 流也