「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

Kキリスト教の矛盾と実態と核心-教父たちによる正当化 Kキリスト教の矛盾と実態と核心-教父たちによる正当化

キリスト教最大の矛盾を、教父たちはどのように解消したか

 ところでキリスト教が教団化されるにあたり、恐るべき矛盾が発生した。

 

 まずイエスにしろパウロにしろ、“現在”を以下のように説明した。

 

 「いまは〈最後の審判〉を、世界が待っているときである。〈審判の日〉は、もう戸口まで来ている」。

 

 それならば、“現世”において教団が大きくなっていくのは、おかしいではないか。“現世”とはあくまで、〈審判の日〉までの「仮の宿」のはずだ。

 

 それなのに教会が政治組織としていつまでも“現世”に存在することは、矛盾ではないか。では〈審判の日〉は、いったいいつ来るのか?

 

 このような疑問をもつ信者も、当然、現れる。

 

 そこで教会が用意したのは、以下の回答である。

 

「この世の一年は天国の千年であり、この世の千年は天国の一年である。現世と来世では、時間の感覚が違うのだ。いずれにせよ、〈最後の審判〉が来るのは、間違いない」。

 

 また教会は、いつまでも〈審判の日〉が来ないことで、信者の信心が離れるのを恐れた。

 

 そこで教会がしたことは、「天国と地獄」の概念を大仰にすることである。

 

 天国の快楽と、それ以上に地獄の苦痛をいっそう強調することで、信徒たちの希望と恐怖感に訴えた。

 

 それにより教会への帰属意識を、強靭なものとした。

 

 この点は、『旧約聖書』と『新約聖書』読みくらべれば、すぐにわかる。

 

 『旧約』の民(ユダヤ人)による究極目標は、あくまで現世において、「ユダヤ人の王国」を築くことである。

 

 ところが『新約』の筆者たちは、キリスト教徒が天国で「神の国」を構築することを、しきりに説いているのである。

 

 そして〈審判の日〉は影も形も見えず、その状態が 2000 年続き、現在に至っている。

史上最強の〈ミーム〉。それがキリスト教

 キリスト教とは、ある意味で完成された宗教である。

 

 その理由は、宗教のアニミズム(原始的信仰)的段階から、もっとも性質が離れているからである。

 

 単一神、聖と俗の分離、自然からの離脱、厳密な「現世と来世」の概念、整備された教義と儀式、公式な聖典(聖書)の存在、厳然と区画された教団組織、等々……。

 

 ならば支配者としても、この宗教を敵に回すより、これの保護者になったほうがいい。人民統治には、そのほうが断然に有利である。

 

 こうしてローマ皇帝たちは、キリスト教を受け入れていった。

 

 また、この現象はある意味で最大の皮肉である。もっとも貧しい者、弱い者の憩いの場であるキリスト教教会が、もっとも強いローマ帝国の支配イデオロギーになったのだから。

 

 そう考えると、キリスト教という世界宗教が、なぜローマで生まれたか、あるいはなぜローマでなくてはならなかったのか、の理由がわかってくる。

 

 それはローマが多民族からなる帝国であり、みじめな境遇に置かれた非支配者たちが多数、存在していたからである。

 

 だがここに、面白い事実がある。ローマ帝国内において、キリスト教の受容が深まるほど、それに反比例するかたちで、ローマ帝国の国力自体は減少していくのだ。

 

 そしてローマ帝国が滅んでも、キリスト教は「暗黒の中世」を細々と生き残った。さらにやがて膨張の近代において、姿を変えて再度爆発した。

 

 キリスト教とは、まるで遺伝子である。それも最強の。

 

 ところでイギリスの生物学者、リチャード・ドーキンスは、以下のように主張した。

 

 「個人のために、遺伝子があるのではない。遺伝子にとって個人とは、後世に自分を残していくための乗り物にすぎない」。

 

 またドーキンスは、自然のものでなく、社会的な遺伝子を〈ミーム〉と名づけた。

 

ならばキリスト教とは、人類史上に類を見ない、最強・最大の〈ミーム〉と言えるだろう。

 

 なぜならキリスト教は、その信徒である個人や民族、国家が滅んでもなお、自分だけは生き残っているからである。

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管理人 水無川 流也