「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

Iヘレニズム文明・文化-古代西洋文明・文化の絶対的基盤 Iヘレニズム文明・文化-古代西洋文明・文化の絶対的基盤

ヘレニズム文明の普遍性

 ではヘレニズム時代とは、当時の人々にどのような精神的影響をおよぼしたか? 

 

 これは人類史上初の、〈世界市民〉という概念をもたらしたことが挙げられる。

 

 21世紀の今日では、〈グローバル社会〉などという言葉があるように、人類はすべて「地球はひとつ」という観念をもっている。

 

 現代ではたとえ山岳の僻地に住んでいる民族でも、物質的・精神的に“世界”という枠組みから完全に孤立して生きるのは、不可能である。

 

 そのように民族や国家を超えた、普遍的な“人類”という概念に、万民が属するという観念を、ヘレニズム社会は生んだ。これを「コスモポリタニズム」という。

 

 また現にアレクサンダー大王は、異民族同士の結婚なども推奨し、地上における民族の統合も図った。

 

 結局、アレクサンダー大王の大志は実現されなかったが、彼の理念は、ローマ帝国に受け継がれた。

 

  ローマ帝国は地中海周辺という限定つきだが、他民族が共生する世界国家を築き上げた。

ヘレニズム文化

 前のページで述べたように一時的にせよ、アレクサンダー大王がユーラシア大陸を一元的に支配したので、その支配地とギリシャの文化が融合され、新たな文化が生まれた。

 

 これを「ヘレニズム文化」という。

 

 ヘレニズム文化の内容は、建築物や美術品に多く見られる。しかしなによりも重要なのは、〈コイネー〉というギリシャ語が中東で共通語となったことである。

 

 なぜなら後世には〈コイネー〉により、キリスト教徒の聖典『新約聖書』が書かれたからである。

 

Iヘレニズム文明・文化-古代西洋文明・文化の絶対的基盤
コイネーで書かれた新約聖書

 

 またヘレニズム時代には、自然科学人生哲学が発達した。

 

 この現象は近現代において、大哲学者ヘーゲルが西洋近代哲学を集大成した後、自然科学や実存主義哲学が発展したのと、おなじ論理である。

 

 古代ギリシャ哲学は、アリストテレスの“思弁”により完成された。

 

 だが“思弁”からなる思想とは、かならずしも実用的な目的にかなうものではない。

 

 またどんな学者であろうと、自分の専門を思考によりアリストテレス以上に、広くかつ深く、構築することはできない。

 

 それほどまでに、当時の段階におけるアリストテレス哲学は、完成度が高い。

 

 よって学徒たちは、“思弁”という観念を離れ、自然から直接的に法則性を発見しようとした。

 

 その成果が、エウクレイデス(ユークリッド)の幾何学であり、アルキメデスが発見したいくつかの数学、物理学の法則である。

 

 またギリシャのポリス社会における精神的基盤は、さまざまな神話からなるギリシャの宗教である。

 

 ところがポリス社会の没落、および哲学が隆盛したことにより、神話の説得力がおおきく失われた。

 

 ところで“”、もしくは“神々”とは人間にとって「自分の外側に存在する、絶対的精神者」である。

 

 自分の外部における、精神的拠りどころを失った人間は、次に何にすがるか?

 

 それは「内的精神=自分の“自我”」である。

 

 そうした理由でヘレニズム時代の哲学者たちは、自我により、「神の不在」を乗り切ろうとした。

 

 だからこそ「人は神なしで、どう生きるか」が大問題となった。その結果、生まれたのが、ストア派エピクロス派の哲学である。

 

 だがこうした哲学は、どうしても対象が「人生問題」という狭い課題に限定されてしまう。また人間の認識から世界全体を説明できるほど、当時の哲学者は成熟していなかった。

 

 その結果、最終的に古代哲学は古代ローマの時代まで続いたが、結局は儒教なみの実践道徳に落ち着いた。

 

 またもちろん、ヘレニズムの哲学者のなかからは、その実力でアリストテレスに迫るほどの者は現れなかった。

ヘレニズム文明の真価

 アレクサンダー大王の帝国同様に、一瞬間、ユーラシア大陸を支配したが、すぐに瓦解した帝国は他にある。

 

 それは中世におけるモンゴル人による帝国であり、あるいはイスラム教徒・ティムールの帝国などである。

 

 

 ところがヘレニズム文明における真の偉大性とは、アレキサンダー大王が史上初の大帝国を築いたことではない。

 

 そうではなく、その文明の精神が「〈ミーム〉=社会的遺伝子」として、現代まで生きていることである。

 

 そのミームは、古代ローマからイスラム帝国近代ヨーロッパを経て、かたちを変えながら、現代人がもつ価値観のひとつとなっている。

 

 その一例が、コスモポリタニズムやデモクラシーの概念、あるいは当時の学問・哲学などである。またこの点が、モンゴル人の帝国などとは異なる。

 

 だが古代ギリシャ人やアレクサンダー大王は、そのミームを残した時点で歴史的役割を終え、いまから 2,300 年前をもって、歴史から消えていったのである。

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管理人 水無川 流也