「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

R古代アメリカ大陸文明 -アメリカ先住民たちの活動と社会 R古代アメリカ大陸文明 -アメリカ先住民たちの活動と社会

○最初にインディアンがいた。元気も創意も文化もない劣等人種―スタインベック『エデンの東』

南北アメリカ文明の隆盛と滅亡

 ここでは、古代の南北アメリカ大陸で花開いた、いくつかの文明と文化を紹介する。

 

 それはマヤ、アステカ、インカ文明、およびアメリカ・インディアンの文化等である。

 

 これらの文明・文化は、マヤ文明をのぞき、すべてイギリス人・スペイン人・フランス人など、白人の侵攻により滅びた。

 

 その白人の侵略により、当地の原住民や文明・文化の痕跡はどうなったのか、およびそれが現代にどう繋がっているのかを見る。

近世までの南北アメリカ大陸

 ここで大航海時代以降、白人勢力が南北アメリカ大陸に押し寄せるまでの、当地の歴史を紹介する。

 

 まず数万年前、アメリカ大陸には、人類はいなかったと思われる。

 

 ところが現在から 1 万年以上前には、アメリカ大陸とユーラシア大陸を隔てるベーリング海峡が、氷期のため陸続きだった

 

 そこをモンゴロイドの集団が、ユーラシアからアメリカに、何千年もかけて渡ってきた。

 

 また彼らは、数千年をかけ、南北アメリカ大陸の隅々にまで浸透していった

 

 その際に、現在のアメリカ合衆国地域に居住をしたのは、いわゆるアメリカ・インディアンである。

 

 彼らは狩猟と農耕中心の生活を送り、ついに強力な集権国家を生むことはなかった

 

 一方、高原のある中米では、トウモロコシ栽培が盛んにおこなわれ、マヤ文明アステカ王国が興った。

 

 マヤ文明は AD 600 〜 900 年ごろに全盛期をむかえた。

 

 マヤでは強力な王権のもと、正確な暦法や巨大建築物がつくられた。

 

 しかしその後、マヤ文明の都市から住民は消え、マヤ文明は終焉をむかえた。

 

 またアステカ帝国は多神教からなる神権政治がおこなわる、厳密な階級社会であった。

 

 アステカでは軍備が強化されるにあたり、国内の道路も整備された。

 

 くわえてアステカは、アステカ以前の文明も継承していたため、建築工芸などの技術も発達していた。

 

 さらにマヤもアステカも、独自の絵文字をもっていた。

 

 だがアステカ帝国は、16 世紀にスペイン人により滅ぼされた。

 

 最後に、南米東岸で栄えたインカ帝国を紹介する。

 

 インカ帝国もまた、先行文明が遺した文化遺産を受け継いでいるため、多くの分野で高度な文物を築いた。

 

 たとえば灌漑を利用した農業や、巨大建造物などである。

 

 またここでも太陽信仰がおこなわれ、皇帝は太陽の化身とみなされた。

 

 また帝国領土も一時期は、南北で 1,500 キロにもおよび、人口は 1,600 万人にも達するほどだった

 

 しかしインカ帝国もまた、16 世紀にスペイン人ピサロの私兵たちにより、滅ぼされた。

 

 こうした事実から、北米インディアンはいまだ未開状態だったが、マヤ、アステカ、インカの文明は、アジア的専制国家の段階に達していたと考えられる

北米地域で、王国が生まれなかった理由

 さて、ではなぜ、中南米地域では王権が誕生したのに、現在のアメリカ合衆国やカナダの土地では、まとまった王国が出現しなかったのであろうか?

 

 その理由は端的に述べれば、食糧の調達が容易だったからであろう。

 

 北米地域は一部をのぞき、ほぼ平地である。また気候も比較的おだやかで、安定している

 

ならば狩猟・牧畜にせよ農耕にせよ、やりやすく、かつ獲物や収穫も生きていくには充分なほど、採れたことであろう。

 

 ちなみにそのため原則として、アメリカ・インディアンたちは「所有」という概念をもたなかった。

 

 白人たちはその点を突き、インディアンたちから土地や財産を奪ったのである。

 

 基本的に人類は、温暖で安定した環境にいれば、大集落をつくらない。

 

 古代の人間が群れをなし大きなムラやクニをつくるのは、そうしなければ食糧の確保が立ち行かないときのみである。

 

 またそうした事態に陥るのは、気候の寒冷化などにより、小さな共同体だけでは生きていくなるからである。

 

 

 この点は、A農耕、牧畜、言語の起源-文明の必然的産物は、どのように生まれたかのページにおける「農耕・牧畜の起こり」の章を参考にしていただきたい。

 

 そうした北米地域に比べれば、中南米は気候の変動も激しく、土地も峻厳である。

 

 ヒトはどうしても集住し、都市型生活を選ばざるを得なくなるだろう。

 

 よって中南米では北米と異なり、ある程度の文明の進歩があったと思われる。

 

 またその結果、中南米におけるインディオ(=中南米の原住民)の総人口は、北米のインディアンたちよりずっと多くなったのである。

 

 近世になり白人が侵入するまで、北米インディアンの人口は、ほぼ 200 万人ほどと考えられる。

 

 しかし南米のインカ帝国における人口は、最盛期には1,600 万人アステカ帝国では 2,000 万人はいたと推定される。

太陽信仰がもつ意味

 中米のアステカ帝国、および南米のインカ帝国は、“太陽信仰”で有名である。

 

 よく知られるように、アステカ帝国では太陽神が崇拝されていた。

 

 そしてその太陽が明日も変わらず昇るためには、人間の血が必要と考えられていた。

 

 そのため生きた人間が、祭祀における生贄として捧げられ、生きたまま心臓を取り出された。

 

 またインカ帝国では、前述したように、皇帝は太陽の化身として権勢を振るった。

 

 さらに 9 世紀ごろにはほぼ衰退していたマヤ文明も、太陽を信仰したいたと考えられている。

 

 ところで、もっとも多い時期で 500 ほどの部族がいたと言われる北米インディアンには、それほど太陽に対しての強い崇拝は見られない。

 

 もちろん、インディアンたちは種族によって、様々な神話をもっており、当然、そのなかには太陽や太陽神は現われる。

 

 だがインディアンたちの太陽への想いは、決して狂信的なものではない。

 

 アニミズム(万物崇拝)のなかのひとつに、太陽が存在するといった程度である。

 

 このような北米インディアンと、中南米における先住民たちとのあいだに存在する、“太陽”に対する認識の違いは、何によるものであろうか?

 

 これはもちろん、どれだけ生活を“農業”に依存しているかの差であると思われる。

 

 言うまでもなく、太陽は農業生産にとって、死命を決するほど重要である。

 

 太陽は豊作をもたらすとともに、凶作の原因ともなり得る。凶作となれば、人は餓死にするほかない

 

 ところで以下のことは、前章ですでに述べた。北米インディアンは半猟半農で分散型の暮らしを営んでおり、逆に中南米の先住民たちは農耕依存型の都市型生活を送っていた。

 

 ならばアステカやインカの住人にとって、太陽は熱烈な崇拝の対象にもなるであろう。

 

R古代アメリカ大陸文明 -アメリカ先住民たちの活動と社会
インカ帝国の太陽神

 

 

ところで世界史上で、アステカやインカに近い文明形態や生活環境をもつ民族は、古代のエジプト人である。

 

 アニミズム的な信仰形態、皇帝や神官が「神の化身」として専制的な支配力をもつ点、農業依存型の都市型文明である点などが、共通している。

 

 その古代エジプト人も、太陽神による一神教を創るほど、太陽を最重要視していた。

 

 こうした点から、マヤ、アステカ、インカなどにおける太陽崇拝の意味もわかってくるであろう。

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管理人 水無川 流也