「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

A対抗宗教改革で現出した、カトリックとラテン民族の本質 A対抗宗教改革で現出した、カトリックとラテン民族の本質

カトリシズムとは、ラテン民族の原理である

 前のページにおいて、プロテスタンティズムとは基本的にゲルマン民族のための原則だということは、述べた。

 

 それと同様に、このページではカトリックの法則、つまりカトリシズムとは一般にラテン民族に属するものであることを説明する。

 

 まずラテン民族の性質として挙げられることは、たいへんに現実主義的だということである。

 

 彼らは古代ローマ帝国時代には主導民族となり、広大な領土を巧みな政策によって支配した。

 

 よく言われるように、「ローマ人とは、知力では、ギリシャ人に劣り、体力では、ケルトやゲルマンの人々に劣り、技術力では、エトルリア人に劣り、経済力では、カルタゴ人に劣る」のに、である。

 

 くわえてローマ時代のラテン人たちは本質的には極度に観念的な宗教であるキリスト教を、最強の地上支配のためのイデオロギーに変えた

 

 それが、〈カトリシズム〉である。

 

 そうしたわけで、古代のローマ帝国時代より、ラテン民族の依って立つ教義とはずっとカトリックなのだ。

 

 この関係性は近世初頭に、ドイツの神学者、ルターより〈宗教改革〉が始められても変わることがない

 

 下の図からもわかるように、宗教改革後にもカトリックが主流である地域は、イタリア、フランス、スペイン等の、ラテン諸国である。

 

A対抗宗教改革で現出した、カトリックとラテン民族の本質
16世紀におけるカトリック、プロテスタントの勢力図
借用元 http://www.osaka-c.ed.jp/ed/H17/visual/history/tyusei/skaikaku/where.html

 

 ところでローマ教皇庁は宗教改革後、プロテスタント側からの批判に対応できるよう、組織の構造改革をおこなった。

 

 これが〈対抗宗教改革〉である。

 

 その結果として生まれ変わったカトリック教会だが、その核心的な部分はやはり、ラテン的な要素が温存されていた。

 

 そうしてラテン民族とカトリックは、近世の初頭において、ヨーロッパを牽引していくこととなる。

 

 ではまず、対抗宗教改革について、くわしく述べる。

対抗宗教改革 概要

 ドイツにおいて多くの諸侯たちが、プロテスタントへ転向するのを重く見たカトリック教会は、教義の明確化と内部革新により、組織の立て直しを図った。

 

 これを「対抗宗教改革」と呼ぶ。

 

 その方針は、1545 年イタリア・トリエントにおける会議により決定された。

 

A対抗宗教改革で現出した、カトリックとラテン民族の本質
トリエント公会議の様子
借用元 http://www.wpsfoto.com/items/D1807

 

 その内容は、教皇の至上権の再確認組織腐敗の防止、および宗教裁判所を設けての思想統制であった。

 

 その際にスペインのイグナティウス・ロヨラが、同志、フランシスコ・ザビエルらとともに、〈イエズス会〉を結成した。

 

 その後イエズス会はヨーロッパのみならず、海外でも積極的な布教や教育活動を、おこなうこととなる。

 

 また対抗宗教改革はちょうど、〈大航海時代〉の幕開きと時期が合致していたため、通商や植民活動とも密接な関係をもった

 

 さらに対抗宗教改革の成果は、ヨーロッパ南部においてプロテスタント勢力の進出を阻むなどの点に現れた。

 

 ところが一方、宗教改革と対抗宗教改革は、各国における国王の権力を規定するという作用ももたらした。

 

 つまり各国の国王が、カトリック、プロテスタント、どちらに所属するかによって力関係が形成されたのである。

 

 その結果、中世には見られなかった国家間の大戦争も勃発するようになり、さらには「絶対主義の時代」も、これにより始まったと言える。

 

 また改革の結果、各国の国民は、教皇や国王から、より強い生活上の強制も受けるようになり、〈魔女狩り〉のような、異端排除の動きも起こるようになった。

カトリック、プロテスタントともに、改革後の組織は、元来のあり方と正反対になった皮肉

 さて、宗教改革、対抗宗教改革の結果、成立した組織のあり方は、興味深いことに、プロテスタント、カトリック、ともに両者の性質とは真逆のものになった。

 

 まずプロテスタントであるが、こちらは「“信仰”と『聖書』に還れ」という主張のもとで、できた教団である。

 

 ところがその内実は、本職の聖職者が長老をつとめる〈司教制度〉を、カルヴァンらは廃止した。

 

 その結果、一般教会員のなかから長老を選出する制度が採用された。

 

 さらに偶像崇拝の禁止等も徹底されたため、プロテスタントの組織は空洞化し、やや緊張感にとぼしい世俗的なものとなった。

 

 その姿はおおよそ、“聖性”が欠落していると言っていい。

 

 再度述べるように、プロテスタントとは、キリスト教の元来的なあり方に回帰しようとする組織であるのに、である。

 

 さて一方のカトリックであるが、こちらは元来はローマ帝国時代から、「人民統治」という実用的な目的のため、存在した機関であった。

 

 ところが対抗宗教改革を経て改造された組織は、より荘厳で神秘性のつよいものとなったのだ。

 

 その理由であるが、それは前のページ「Aプロテスタントの影響と西洋諸国-敬虔性と現実主義が混在」の最終章、「“神”を極度に抽象化することにより、“神”を無効化したプロテスタント」で語ったとおりである。

 

 まずプロテスタントとは、“”をこの上なく「至上の存在」とすることにより、逆に「神の威」を無力化させる教えである。

 

 ならばその教会のあり方ももちろん、聖性”を主張するほどに“聖性”が失われその代わりに「人間の生活」が入りこむのである。

 

 これならば、世俗化するのも当然だ。

 

A対抗宗教改革で現出した、カトリックとラテン民族の本質
質素なプロテスタント教会の内部
借用元 http://plaza.rakuten.co.jp/kirkhanawa/diary/201001160000/

 

 一方、カトリックであるが、こちらはローマ時代より、タテ型で統一的かつ厳密な組織形態をつくり帝国や国家を支配してきた歴史がある。

 

 よって対抗宗教改革の結果、「堕落している」という指摘があれば、当然に「天上の」ではなく、「地上の組織」を、実質的なものにするのである。

 

 それによりもちろん、教会のあり方も「より神聖性を増したもの」になっていくのだ。

 

A対抗宗教改革で現出した、カトリックとラテン民族の本質
荘厳なカトリック教会の内部
借用元 http://www.mvsica.sakura.ne.jp/eki/yamauchi/vol02/index.html

 

こうしてプロテスタントの教会は、“神聖性”にこだわるわりに、通俗的なものなった。

 

 それに反しカトリックの教団は、従来的には、生きた人民や国家の支配を第一義とする組織であるのに、その教会は、精神性にあふれたものとなったのである。

カトリック勢力が近世初頭において、西洋世界を牽引し、またその後は没落した理由

 さてでは、なぜ近世の初期において、スペインやポルトガルといったカトリックの国々は、植民活動等、世界進出に他国より先がけ、成功できたのか?

 

 その理由はまさに、上に記したように、カトリック教会とは、厳密なタテ型で一元的な組織として、機能したからである。

 

 カトリック国家は、国王とローマ教皇のもとで、国が一体となり、海外政策などを実行できたのだ。

 

よってそれは、大規模かつ計画的になされた。

 

 これが近世初期における、カトリック、ラテン民族の国々が成功できた理由である。

 

 さて、それでは、なぜそうした国々は近世の後期には、プロテスタント勢力に追い越されてしまったのであろうか?

 

 その根因こそ、まったくカトリック諸国に栄光をもたらした組織の統一的あり方に存在する

 

 スペインやポルトガルは整然と、国家事業として組織だって海外事業をおこなったが、その制度そのものが、硬直化して小回りが利かなくなったのだ。

 

 階級社会というものは、それが固定されてしまうと、もはや歴史的な発展は望めなくなるのである。

 

 なぜなら、そこからは次世代を担う新しい階級は生まれないからだ。

 

A対抗宗教改革で現出した、カトリックとラテン民族の本質
カトリック教会の組織図
借用元 http://blog.livedoor.jp/kkit11/archives/51697690.html

 

 

A対抗宗教改革で現出した、カトリックとラテン民族の本質
各キリスト教教団における、簡単な組織図
借用元 http://third-conquest.seesaa.net/article/147439848.html

 

 

 ところで、近世後期からのプロテスタント諸国は、このかぎりではない。

 

 こちらは統一的組織をもたない代わりに社会階級のあり方が流動的である。

 

 よって、ここからは〈近代〉を代表する身分である「市民=ブルジョワジー」が生まれた。

 

 近世後期以降は、このブルジョワ階級が通商の専門家として世界の主役となっていく

 

 一方のカトリック諸国は、国王がローマ教皇と実権をめぐり争ったフランスを例外として、ブルジョワジーを誕生させることはなかった

 

 さらには旧い体制からは新たな生産様式も登場しない

 

 つまりはカトリック諸国は、物質の生産能力も中世のままだったのだ。

 

  ここから、カトリックを繁栄させた原因と、衰退させた要因は同一のものである、という皮肉な現実が見てとれる。

 

 したがってスペインやポルトガルは、施策の規模は大きいが、機動性に欠けるため、「激動と物量の時代・近代」では、脱落していくほかなかったのである。

関連ページ

@ルネサンスの本質とは、人類の思春期、性と理性の開花
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
@ルネサンス美術-絵画・彫刻に現れる、立体性というエロス
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
@ルネサンス文学-小説の誕生と、自我で行動する主人公たち
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
@ルネサンス科学を経て、相対的な認識が可能となった人類
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
A宗教改革の原因、経緯と、その結果との信じがたい隔たり
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
A“信仰”とは、西洋近現代における最強の〈免罪符〉である
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Aプロテスタントの影響と西洋諸国-神秘性と現実主義が混在
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Bレコンキスタ-大航海時代に内部爆発する、西洋世界の原点
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
B西洋が大航海時代に入った究極要因−寒冷化、肉食、香辛料
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
B西洋人の近世における征服・植民活動は、なぜ成功したのか
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
B「世界の一体化」-大航海時代の結果がもたらしたものは?
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
B「日の沈まぬ国」スペインの、繁栄と没落の原因は同一
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Bオランダの独立とイギリスの進出-なぜ新教時代は花開いたか
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Bなぜ近世にプロテスタントはカトリックを、逆転できたのか
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
Cイタリア戦争-争いと寒冷化をつうじ、〈主権国家〉を現出
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
しばらく休止
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。
重要なお知らせ
複雑で難解と思われる世界史を、88の事象に分類し、その出来事を示す格言・名言により説明します。内容は本質的でありながら、たいへんにわかりやすいです。日本史をふくめた全世界史を、哲学的方法論でもってひとつにまとめています。

管理人 水無川 流也