
○人はただ信仰によってのみ自由とされるのであって、いかなる意味においても行為の正しさによって自由をえるのではない―ルター
宗教改革の特徴
近世初期の神聖ローマ帝国で起こった〈宗教改革〉ほど、後の歴史を決定づけた出来事は、人類史上にない。
この〈宗教改革〉の結果、ヨーロッパでは政治、社会、経済、文化と、あらゆる事象が〈近代化〉され、“近代”が本格的に始まった。
そしてその動きはヨーロッパのみならず、“近代”をつうじて全世界へと拡がった。
つまり、現代人であるわれわれが依拠している政治・経済・社会の体制から、文明・文化の産物まで、すべてのルーツは、〈宗教改革〉にあると言っても、過言でない。
その影響力で言えば、前章までに述べた〈ルネサンス〉とは、比較にならないほどの大きさである。
ところが、この宗教改革が発生した原因や、それが展開されてていく過程、およびその結果をよく見ると、なんとも奇妙な現実に気づかされるのだ。
それは端的に述べれば、まずこの動きは、はじめにドイツの神学者、マルティン・ルターの主張から始まった。
そしてその結果として現出した世界は、当初におけるルターの発言と、何から何まで質が正反対なのである。
ここを簡潔に述べれば、そもそもルターは、「キリスト教徒は“信仰”と『聖書』に立ち返り、“信仰”を深めよ」と明言している。
ところがその後の歴史、およびその結果としてある、われわれ現代人の生活は、おおよそ“信仰”とは正反対のあり方をしているのだ。
端的に述べれば、〈宗教改革〉に端を発し、キリスト教の影響力は、近現代をつうじて、どんどんと低下しているようにしか見えないのである。
これは一体、どういうことであろうか?
まず、宗教改革の経緯を見てみる。
宗教改革 概要
中世末期にカトリック教会は、ヨーロッパに向けて「〈免罪符〉=贖宥状(しょくゆうじょう)」の販売を本格的におこないようになった。
「免罪符」とは、教会に寄付をする等の“善行”を積んだ者に対し、一時的に罰を免れるとする、免除証書を指す。
免罪符
借用元 http://blogs.yahoo.co.jp/david_solomon2011/11296413.html
時のローマ教皇レオ 10 世は、免罪符を購入することにより、過去の罪に対する罰も赦されると説いた。
ところがカトリック教会は実際には、免罪符を売って得たカネを、寺院の修復に当てていた。
また当時のドイツは、国内が極度の分裂状態にあったため、教皇の干渉を受けやすかった。
〈宗教改革〉当時の、神聖ローマ帝国 分裂している状態が、よくわかる
借用元 http://blogs.yahoo.co.jp/fbdby107/53566961.html
そうしたカトリック教会のあり方に対し、1517 年、ドイツの神学者、マルティン・ルターは、おおいに異議を唱えた。
ルターによると、魂の救済は、“善行”という“行動”ではなく、むしろ『新約聖書』に述べられている“信仰”により、なされると説いた。
ルターは教会を破門されたが、自説は撤回しなかった。
これによりドイツ国内においては、ルターの主張に共鳴する諸侯たちが現われ、やがてルターの教えはヨーロッパ中に拡がった。
そうして、従来の教会であるカトリックを支持する〈旧教派〉と、これに反する「〈新教派〉=プロテスタント」とに、ヨーロッパ世界は二分された。
その後のヨーロッパでは、プロテスタント派の勢力がだんだんと大きくなっていき、やがてはカトリックを圧倒するようになった。
つまり〈近代〉という時代は、プロテスタントの論理により裏づけられたものとなっていったのである。
宗教改革後、極度に「行動的に」なっていくヨーロッパ
こうして宗教改革は、ヨーロッパ近代のあり方を決定づけたのである。
しかしここで、前述したような謎が残る。
ルターはあくまで「魂の救済は、行動ではなく、『新約聖書』にもとづく“信仰”にある」と主張しているのである。
それなのに、宗教改革を経た西洋人のあり方は、おそろしく「行動的」であるとともに、『聖書』の教えからもどんどんと逸脱していくのだ。
彼らは世界中を植民地とし、またヨーロッパ内における戦争も本格化し、さらにはその後、数百年にわたり、さまざまな“革命”が勃興する。
その際に、キリスト教徒である西洋人は、おおくの支配地における原住民たちを虐殺し、奴隷化した。
これらの行為は間違いなく、〈隣人愛〉を説くキリスト教の教えとは、正反対の行為である。
さらにくわえ、『新約聖書』では、生活に必要以上のカネをもつのは、厳禁とされている。
その例として、『新約聖書』内において、イエスは、「富んだ者が天国に入るよりは、ラクダが針の穴を通るほうが、やさしい」と述べている(『ルカの福音書』18.25)。
しかしその後のヨーロッパでは、近現代の標準的な経済制度である、〈資本主義〉を生んでいる。
もちろん資本主義とは、一定の資本を元に、個人がその資金を自由競争社会のなかにおいて、どこまでも巨大化させていいとする思想である。
さらにプロテスタントの国・アメリカ合衆国の第 16 代大統領、リンカーンは、こんな有名な言葉を遺している。
「人民の、人民による、人民のための政治」
これはきわめて、奇異なことである。
なぜなら、キリスト教における〈国〉とは、まず「神の国」しか指さないからだ。
そして「神の国」とは、悪魔との全面戦争(=ハルマゲドン)に勝利したキリスト教徒たちが、天国において、“神”と“キリスト”を頂点として築く国である。
よって、おおよそ聖書の国であるアメリカの大統領が、「地上に、人間だけの国を造る」などと発言することは、この点からどれだけ傲慢なことかが、理解できる。
だがリンカーンの言明は、〈近代国家〉における理念と解釈されることはあっても、これを批判する者は、まずいない。
よってこれらの現実が、「キリスト教の原点に還ること」を目的とした、プロテスタントの精神から生まれたのならば、こんな奇妙なことはない。
ではこうした現象は、何故に生じたのか。
その点は、次のページでくわしく説明する。
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