「何が」ではなく「なぜ」を、「歴史用語の多さ」ではなく「その関係性」を大切に。

@ルネサンス文学-小説の誕生と、自我で行動する主人公たち @ルネサンス文学-小説の誕生と、自我で行動する主人公たち

“小説”、“随筆”が登場し、文学の主流となっていくルネサンス

 このページでは、ルネサンスを語るうえで、やや忘れられがちな〈ルネサンス文学〉について述べる。

 

 まずルネサンスの時代になり、近代文学の主役となる“小説”が本格的に登場した。

 

 小説とは基本的に、“個人”の思想や経験を、叙事的、あるいは叙情的に散文形式で表現した芸術である。

 

 ヨーロッパにおいては、スペインのセルバンデスが 17 世紀初頭に著した『ドン・キホーテ』がその先駆けと言われる。

 

 ではなぜ、小説とは〈近代〉における花形芸術になりえたのか?

 

 その理由はもちろん、小説が描くのはあくまで“”であり、この時点で天下国家を論じる“大説”とは、一線を画するからである。

 

 そしてもちろん、”が共同体のなかに埋没している前近代社会においては小説”が生まれる余地はない

 

 そうしたことから、中世のヨーロッパや同時代のイスラム社会では、“小説”は生まれなかったのである。

 

 この点については、「Hイスラム文学から読み解く、中世世界-聴覚優先」のページにおける最終章、「なぜ、イスラム文学に“小説”はないのか」を参考にしていただきたい。

 

 その点から、“小説”を文学の主役に押し上げたという意味で、ルネサンスが最初の本格的な近代文化だということになる。

 

 また同様に、ルネサンスでは「随筆」という文学形態も現れた。

 

 それは 16 世紀末に、フランスのモンテーニュにより書かれた『エセー』である。

 

 もちろん「随筆=エッセー」とは、個人がある物事について、気ままで感覚的に書いた物語形式でない散文を指す。

 

 つまり小説と随筆には、ある対象を描写するにあたり、架空のストーリーを用いるか、そうでないか、という違いしかない。

 

 よって、随筆も小説同様、作者が“”の立場から、個人”の心情や状況を描写しているという意味で、〈近代芸術〉である。

 

 こうして“個”が確立されていく時代、〈近代〉は、美術のみならず、文学の領域からも始まっていくのだ。

“自意識”をもち、“自己感情”を行動原理とする、シェイクスピア作品

 シェイクスピアは、世界中のだれもが知る、16 世紀から 17 世紀にかけて作品を遺したイギリスの劇作家、詩人である。

 

 厳密にはシェイクスピアの登場は、ルネサンスの最盛期より後だが、近年ではシェイクスピアの作品は、ルネサンスのものと解釈されるようである。

 

 ところでシェイクスピアは合計して 40 ほどの戯曲を書いたが、そのなかに登場する人物たちは、ある共通した性質をもっている。

 

 それはだれもが“自我”、“自意識”をもち、かつ、そこから生まれる判断や感情によって、行動するという点である。

 

 たとえば、シェイクスピア作品のなかでもっとも有名なものは『ハムレット』であるが、この主人公であるデンマーク王子を動かすのは、“復讐心”である。

 

 もちろん一般に“復讐”とは、きわめて私的かつ、個人的な行為である。

 

 あるいは『リチャード 3 世』の主人公は、“我欲”により行動する。

 

 リチャード 3 世は野心達成のため、手段を選ばない卑劣で残酷な行為におよぶがこれは逆に述べるならば、おのれの野望に忠実だとも言える。

 

 つまりはリチャード 3 世にとっては、“自我”が行動原理なのである。

 

@ルネサンス文学-小説の誕生と、自我で行動する主人公たち
狂気のごとく、我欲に執着してふるまう、リチャード 3 世
借用元 http://setagaya-ac.or.jp/kumin/archives/200912/

 

 こうした主人公たちの心情は、すべてのシェイクスピア作品に通じている。

 

 たとえば『マクベス』の主人公であるマクベス将軍は、妻と共謀して、陰謀により王位に就き、その後もどんどんと敵対者を粛清していく。

 

 マクベスの場合は、リチャード 3 世と同様に、死ぬまで悪事を止められないのだが、その心のあり方はリチャード 3 世とは対照的である。

 

 というのは、マクベスはむしろ主体性の無さから妻の口車に乗せられ、また主体性の無さゆえに、凶行を止められないのである。

 

 このようにシェイクスピア作品においては、つねに「個の内面」こそが問題となっている。

 

 この点こそ、まさに「近代的」というべきであろう。

 

 また以下のことは、哲学者のヘーゲルが『美学講義』のなかで述べていることである。

 

 まず、シェイクスピア作品の主人公たちと対照的なのは、古代ギリシャ悲劇の登場人物たちである。

 

 ギリシャ悲劇でもっとも有名なものは、劇作家ソポクレスによる『オイディプス王』であろう。

 

 オイディプス王は、“運命”に流され、“運命”に導かれるまま、「父殺し」という罪科を負ってしまう。

 

 また“運命”により、実母を妻としてしまう。

 

@ルネサンス文学-小説の誕生と、自我で行動する主人公たち
“運命”に翻弄される、オイディプス王
借用元 http://didoregina.exblog.jp/17123678/

 

はじめに、ギリシャ時代とは「人類の物心がついた、幼年期」であることは、「G古代ギリシャ史を、人間の認識成長に当てはめれば」のページで述べた。

 

 人は幼年期であるならば、自分に対象選択の余地はなく、「外部の規定性=運命」に流されるまま、生きていかざるをえないであろう。

 

 これは通常、幼児が保護者や教師に導かれることによってでしか、行動できないことを見ればわかる。

 

 ところがルネサンス期における人類の認識レベルは、“思春期”のそれである。

 

 この点は、「@ルネサンスの本質とは、人類の思春期、性と理性の開花」のページにおける、「〈視覚優先〉に見られる、“理性”の目覚め」以下の章で述べた。

 

 思春期にある少年ならば、〈自己意識〉が芽生え、主体的な行動が可能となってくる時期である。

 

 こうしたことから、ルネサンス文学であるシェイクスピア作品の主人公たちは、良くも悪くも、自我”の命じるままに振る舞うのだ。

 

 またその結果がどうなろうとも、それは〈自己責任〉として、すべて自分に還ってくるのである。

 

 くわえてシェイクスピアについてもう一点、述べれば、彼の英語は、近現代におけるわれわれが知る英語の標準となった。

 

 つまりはシェイクスピアとは、近現代人の「思考の内容」も、「言語の形式」も、規定したのである。

『デカメロン』、『カンタベリー物語』に見る、性の開花

 ルネサンスとはまず、人類の第二次性徴期、すなわち思春期であり、それゆえ「人類における、“性の目覚めである」ことは、以下で述べた。

 

 それは「@ルネサンスの本質とは、人類の思春期、性と理性の開花」のページにおける、「〈視覚優先〉に見られる、“理性”の目覚め」以下の章である。

 

 ルネサンス美術が、その開花した“”のあり方を表現したものであるならば、それと同様の点が、ルネサンス文学の世界でも見受けられる。

 

 というのは、そうした「性の開花」を表現した文学作品が、存在するからだ。

 

 それが、イタリアのボッカチオによる『デカメロン』と、イングランドのチョーサーによる『カンタベリー物語』である。

 

 この両者のストーリーは、共通している。

 

 なぜなら、『カンタベリー物語』は『デカメロン』をもとに、書かれたからである。

 

 そのあら筋とは、たまたまおなじ宿に泊まることとなった、複数の男女が、一晩中、ひたすら猥談にふけるというものだ。

 

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『デカメロン』における、男女の様子
借用元 http://blogs.yahoo.co.jp/makinomasaki2281/50824497.html

 

 そうした物語自体は、特筆すべきものでもなかろう。

 

 しかしそんな男女たちの行動は、そのまま現代の「性に目覚めたばかりの」、少年・少女のもの、そのものとも言える。

 

 たとえ表現形式は、美術と文学で異なっても、ルネサンス芸術があつかうテーマは同一である。

『神曲』において表現される、「神の視点」

 最後に、ルネサンス文学を語るにおいて、外せないであろう作品を挙げておく。

 

 それは、14 世紀前後にイタリアのダンテにより書かれた、『神曲』である。

 

 『神曲』は、当時のカトリックにおける世界観を表していると同時に、一個人である主人公が、「神の視座」をもつという作品である。

 

 つまり物語の背景は中世的であるが、「人間が“神の視点”を得る」とう点に特徴がある。

 

 『神曲』のあら筋は、以下である。

 

 作者であり、物語の主人公であるダンテが、「永遠の恋人」、ベアトリーチェに導かれ、地獄、煉獄、天国をめぐるといったものだ。

 

@ルネサンス文学-小説の誕生と、自我で行動する主人公たち
『神曲』 天国篇
借用元 http://kitamahokif.jugem.jp/?eid=277

 

 ダンテがこれを執筆した動機は、カトリック的倫理観を確立させるためであったようだが、皮肉にもダンテの行動は、〈近代的〉である。

 

 なぜならもちろん、死後世界を人間が訪れ、観察するという行為はすでに人間離れしているからだ。

 

 これはある意味で、人間が神の能力を獲得したというに等しい。

 

 またこれは後の「宗教改革」のページで述べるが、まず〈近代〉とは、人間が神を「こっそりと」排除し、その人間が神の座に座るという時代である。

 

 よって、『神曲』に見られるような、人間の超人性は、「人間が〈こっそりと〉、神と入れ替わった」と思えば、わかりやすい。

 

 くわえて、ルネサンス美術の分野における代表者、レオナルド・ダ・ヴィンチは、解剖学や自然科学、応用技術に通じ、さらには身体能力や容姿にも恵まれていた。

 

 つまりルネサンスとはこのように、”に代わり得る能力をもった人物を、必要とした時代であったのだ。

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管理人 水無川 流也